第31話 使用人たちは出ていく(執事長視点)

「もう、私たち(僕たち)は着いて行けません!」

「待ってください!」


 執事長はやつれにやつれていた。

 家に仕える使用人が次々と辞めていくからだ。


 そして、今回の分で全員が辞めていったことになる。

 彼らは勇敢であったと言えよう。


 魔物が暴走し始めてなお、ここに残り続けていたのだから。ただ、今逃げるのが得策と言える。


 まだガルドの結界が崩壊していない場所があるのだ。それを察してか知らないが、国家騎士団がそこに駐屯し、領民を逃すようにしている。


 それに、ロットが暴れたのは一部の地域のみ。

 ……ただ、その一部の地域でも問題なのだが。


 復活した魔物は全て上級以上なのだ。

 何故かトレイ領から出ようとしないため、他領への影響はないが、トレイ領の被害は間違いなく甚大になると言える。


 もちろん執事長はその事実を知らない。

 トレイ伯爵も知らない。


 執事長は床に手を付き、うううと呻いている。

 ショックが大きすぎたのだろう。


 胸を苦しいそうに押さえ、目を見開いている。

 執事長もいい歳をしていた。


 持病がいくつかあってもおかしくはないほどには歳を食っている。


「あ、ああ……」


 臓器の一つ、心臓が悲鳴を上げた。

 その場に倒れ込み、痙攣を始める。


「ど、どうした!」


 音を聞いてか、トレイが飛び込んできた。

 慌てて回復魔法を施し、どうにか絶命するのを防ぐ。


 感謝を述べる執事長であったが、トレイの形相を見て言葉を失ってしまった。


 しばらくそっとしておいてくれ、と言われていたので会っていなかったのだが……彼はどうしようもなく痩せ細っていた。


 食事が喉を通らないのだろう。

 執事長は先ほどまで生き絶えそうになっていたのに、慌ててトレイを労ろうとする。


 それをトレイは断り、執事長を近くの椅子に座らせる。

 そして、こう告げたのだ。


「近いうちにガルドに戻ってこいと伝えようと思っている。ロットがどうにかすると言っていたが、彼では絶対に無理だ。悔しいが、仕方がない」


「……それで、もし戻ってこなければ?」


 執事長は聞く。

 答えはすでに浮かんでいたが、そう答えて欲しくなかったからだ。


「爵位を捨てて平民になる」


 仕方がない、仕方がないことなのだとトレイは言う。

 執事長はめまいがして、その場でよろける。


 ああ、もう終わってしまうのかと。

 ただただ、絶望するばかりであった。

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