第18話 怪しい

 とりあえず、階段を降りきって二階層目の探索を開始した。階段を降りる際に罠などがないか確認してみたのだが、特にこれといってそういうものはなかった。


 物陰からシュっと何かが飛び出してきたので、すぐに魔法を発動する準備をする。


「ブラックバット……!」


 体調一メートル半にも及ぶ、巨大なコウモリが魔物化した敵だった。中級レベルの魔物である。


「こんなにも強い敵……! ガルドさん、大丈夫ですか!?」

「別にこれくらいどうってことはない」


 相手は闇属性。とりあえず、光で対抗すればいいのだろうが。それにしては様子がおかしい。


『ギシャァァァァァァァ!!』


 ブラックバットは基本、こちらから刺激をしなければ襲ってこない魔物だ。それなのに、どうしてコイツは敵対的なんだ?


 ……このダンジョン。

 なにかしらありそうだな。


光束発破ライト・ブラスト


 光属性の光線を放つ。

 貫くが、ブラックバットは微動だにしない。


 ふむ。魔法耐性を持っているようだな。

 それなら――


 〈魔法収納マジックポケット〉で剣を取り出す。

 これは俺オリジナルの魔剣で、様々な魔石を埋め込んである。


 『鋼鉄』『攻撃力アップ絶大』『研磨不要』その他色々だ。


「うわぁ。綺麗な剣ですね……」


 戦闘中だというのに、ユリは見惚れてそんな言葉をぼやいた。どうだ、すごいだろう。と自慢したいところだが抑える。


 構え、一気に剣先をブラックバットの心臓目がけて刺し込んだ。


 声を上げることもなく、絶命する。

 付着した血を振り払い、〈魔法収納〉に戻した。


「剣も扱えるんですね……! これも器用貧乏――」

「いや、筋肉パワーだ」

「まだその設定を引きずってるんですね」


 しかし、剣技に関してはあまり得意ではないからあながち間違ってはいない。さっきの突きも、ほぼ筋力でどうにかした。


「あ、なにか落としましたよ!」

「魔石だな」


 どうやら魔石をドロップしてくれたらしい。

 紫色の光を微かに放っている、美しい魔石だ。


 この様子だと、俺が研磨する必要はなさそうだな。

 彼女は嬉しそうにそれを拾い、こちらにかけてくる。


「ありがとうございます! これで、あのブレスレットが完成します!」

「よかったな」


 ひとまず任務完了だな。

 だが……もう一度このダンジョンに来てみてもいいかもしれない。


 ここに生息する魔物はなにかがおかしい。

 調査……とまではいかないが、攻略してみる必要はあるだろう。


「でも……なんだか申し訳ないです。私、なにもできなくて」

「いやいいんだ。気にしなくていい」


 しゅんとするユリの肩をぽんと叩く。


「大丈夫。お前の魔法がなければ、俺は戦うことができなかった。十分助けられたよ」

「……はい!」


 同時に複数の魔法を使用することはできるのだが……彼女のためにも内緒にしておこう。


「そろそろ帰るか。もう夜も遅い」


 時計は確認していないが、少なくとも二時間ちょっとはかかっているだろう。彼女も目も、眠いのかトロンとしている。


「今日はありがとうございました!」

「いいんだ。〈空間転移〉」


 そうして、俺たちはユリの部屋に帰宅した。

 ブレスレットに魔石を埋め込み、無事完成した。


「あの、よければなんですが!」


 言いながら、彼女は俺にブレスレットを差し出す。


「お礼です! 拙い作品ですが、受け取ってください!」

「いいのか。俺に渡しても」


 せっかく自分で作ったのだ。

 人にあげるなんてもったいないだろう。


「お願いします!」

「……わかった。ありがとう、大切にするよ」


 そして、俺はブレスレットを腕に着けてみた。


「似合ってますよ!」

「ありがとう」


 金色の素体に、中央に嵌め込まれた魔石。

 うん。とても美しい代物だ。


「それじゃあ、俺は帰る。また来週」

「あのあの! それとなのですが」


 どうやらまだあるらしい。

 俺としては、大切な友人だからいくらでもお願いは聞いてやりたい。


「明日、サシャさんと一緒に買い物に行くのです。よければガルドくんもご一緒にどうですか?」


 買い物か。そういえば、買い物なんて一度もしたことがなかった。いい機会だ。


「よし。俺も行こう。楽しみにしている」

「やった! それでは明日!」

「ああ」

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