第17話 ダンジョン

 魔法陣をくぐると、森の中に出てきた。

 灯りはなにもないため、真っ暗である。


「ユリ、〈光源ライト〉は使えるよな。照明係を頼む」

「もちろんです!」


 そう言って、彼女は詠唱を唱えた。

 体の上あたり、胸から光の玉がぷかぷかと浮かんできた。


 よし、俺の筋肉パワーを分け与えているから光度は十分だな。眼前にある、地下へと続く階段を見据える。


「ダンジョンに入るのは初めてだったよな」

「はい。少し……怖いですね」


 俺の服の袖をぎゅっと握っている。

 それもそうだ。人間は、というか生き物は初めて見るものには恐怖する。


「大丈夫。基本的には俺が戦闘を行う。それに、ここのダンジョンは下級だ」


 ダンジョンにも、魔法と同じく階級がある。表記は魔法と同じだ。


「そんなことも分かるんですね」

「筋肉パワーでな」

「なるほど……」


 顎に手をあてて、真剣に考え込んでいるようだ。

 どう思考したって、結果は筋肉としか出ないと思うけど。


「ただ、ごく稀に下級でも上級レベルの魔物が出たりする。それは知っているよな」

「はい。特に、このダンジョンだと、誰も入った形跡がないですから……警戒はした方がよさそうですね」


 彼女はしゃがみ込み、地面の形跡を確認している。

 ほう。そんなことを見極めることができるのか。


「とにかく、行くか」

「はい!」


 そして、俺たちはダンジョンに潜る。

 中はじめっとしていて、どこか湿気ている。


 水の音がするから、どこか湧き水でもあるのだろう。

 となると……魔物が多く潜んでいそうだな。


 魔物も、一応は生き物だ。

 食べるものは食べるし、水だって飲む。


 水源があるということは、住処にするにはちょうどいいってことになるのだ。


「ブルースライムか」


 水属性の魔物だ。下級であり、魔物の中では最弱レベルである。


「〈緑の矢グリーン・アロー〉」


 シュッと手のひらから放たれたそれは、ブルースライムを貫いた。すぐに消滅したが、魔石はドロップしない。


「やはり低確率ドロップだからな。あ、聞き忘れていたが、魔石ならなんでもいいのか?」


 魔石には付与するバフ効果によって、価値が大きく変わってくる。魔物が強ければ強いほど、価値のある魔石がドロップする。


「なんでもいいです。でも、綺麗なものがいいなぁと、わがままを言ってみたり」

「ああ。別に構わないぞ。なんなら、濁った魔石がドロップしても、俺が研磨してどうにかしてやる」


「研磨もできるのですか!? もしかして、研磨師を目指しているのです?」

「いや、俺は器用貧乏なだけだ。とりあえず、なんでも任せてくれ」


 はぇー、と感嘆する。

 ……にしても、中に入って気が付いたのだが。


 下級にしては、このダンジョン。階層が多いな。

 〈地図作成〉によると、十はありそうだ。


 大体は一階層で終わりなのだが……。


「とりあえず進むぞ」

「はい!」


 そうして、ズンズン進んでいく。

 魔物が現れては倒し、現れては倒しと繰り返した。


 が、やはり低確率ドロップ。

 なかなか手に入れることができない。


「行き止まりですね……」


 最奥まで来てしまったらしい。

 うーむ。だが、ここは確かに十は階層があるはずだ。


 俺はペタペタと壁を触ってみる。

 ……微かに魔力を感じる。


 多分、隠し扉だな。

 ある一定の魔力を流し込むと開かれる種類のものだろう。


「とりあえず、流し込んでみるか」

「え、なにをです――」


 刹那、壁が轟音を発しながら崩れ去った。

 煙が舞い上がり、ユリはゲホゲホと咳き込む。


「さらに地下へと繋がる階段を見つけた。どうする、行くか?」

「ガルドさんが構わないのであれば……」

「もちろん構わない。だが」


 ここは『下級ダンジョンに見せかけた上級ダンジョンの可能性がある』。


「危険かもしれないが……大丈夫か?」

「はい! 私もある程度は戦えますし、それにガルドさんを信用していますから!」

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