第13話 ロットの報告(トレイ視点)

「ロット……お主、落ちてしまったのか……」

「はい。申し訳ありません、父上……」


 ロットは、暗い表情を湛えて父上に不合格の知らせを告げる。トレイは額に手を当て外ながら、嘆息した。


 一応、どこまで試験を進めたのか聞いておこう。

 そう思ったトレイはロットに尋ねる。


「最終試験です……」


 最終試験で落ちてしまったのか。

 しかしなぜだ。ロットの実力ならば、間違いなく合格の範囲のはずなのに。


 ふと嫌な予感がする。


「誰に負けたのだ」


 血が出るのではないかと思うほどに、ロットは下唇を噛み締める。しかし、ロットは認めることにする。


 自身が誰に負けたのかを。


「ガルドに……ガルドに負けました」

「……どうしてだ!!」


 トレイは分かっていた。

 ガルドは一人で結界を張り、魔物から領地を護っていたと。それほどの実力者なのだと。


 しかしトレイは認めたくなかった。

 自分が役立たずだと思っていた人間に、自身の息子が負けたという事実を。


「お前の鍛錬が足りなかったのだ!!」

「し、しかし!」

「黙れ!」


 ロットが言葉を紡ごうとするのを遮り、自分勝手に叱責する。トレイ自体、ストレスが溜まっていたのだ。


 優秀な兵士は出ていき、領地は魔物に犯されている。

 そのせいで領民も引っ越しを始め、違う領地に移り住み始めた。


 そうなるとどうなるか。

 経済が回らなくなるのだ。


 野菜を生産する人や道具を生産する人はいない。

 そしてそれを買う人もいない。


 もちろん、税金を納める者も。


 だから、息子であるロットに八つ当たりをする。


「ふざけるな! お前がせめて受験に合格すれば、私はまだ見栄を張れた。しかしどうだ! もう私の領地はお終いだ!」


 机に何度も拳をぶつけ、叫び続ける。


「お、落ち着いてください……」

「黙れ! 部外者は引っ込んでいろ!」


 執事長が抑えようとするが、突き飛ばされてしまう。

 壁にぶつかり、そのばに倒れ込む。


 打ちどころが悪かったらしく、死んではいないが気絶してしまっているようだ。


「ロット! お前は冒険者となって出稼ぎをしてこい! いいな!」

「冒険者なんて、そんな危険な仕事……オレしたくありま――」


「さっさと行かんか! 行かぬなら処刑するぞ!」

「ひっ!!」


 脅され、ロットは震えながら部屋を出ていく。

 彼がさってしばらくした後、トレイは執事長をベッドまで運び、自身も床に就いた。


「どうすれば……どうすればよいのだ……」

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