第11話 俺が最下位?

「どうしたのです? 目にクマができていますよ?」

「ああ……ちょっと寝不足でな」

「もしかして成績発表緊張してるの? 僕もー!」


 少し彼女たちとの思考のズレが生じているが、気にするつもりはない。

 そんな重い過去が伝えるのも、なにか違うと思うしな。


 ユリはかなり緊張しているようだ。

 ……サシャは呑気なものだが。


 周囲を見渡してみると、吹っ切れてはしゃいでいる者、項垂れている者と様々だ。


「ホームルームの時間に先生が名指しで発表していくらしいからね。学力促進のためらしいけど、少しやりすぎな気もするよね」


 サシャが明らかに嫌そうな表情をする。

 うむ。確かに名指しで発表されるのは嫌だな。


 俺の場合、上位なのは間違いないが、不安な人は不安だろう。


 待っていると、エレア先生が入ってきた。

 相変わらず、小柄だ。


「それでは成績発表をするねぇ。覚悟するように」


 そして、エレア先生は上から順に発表していく。


「一位、ユリ!」

「やりました!」


 あまりにも嬉しかったのか、思わず椅子から立ち上がってしまっている。すぐに赤面して座り直した。


 かなり不安がっていたようだから、報われたようでよかった。しかし悔しいな。負けてしまったか。


 そして、順々に発表されていくが。


「十五位、サシャ! 頑張ろうねぇ」

「あは! 仕方ない!」


 おいおい……呑気だな。

 というか、あれ。俺の名前……まだ呼ばれていないのだが。


「……十六位、ガルド。あとで魔法術式研究室に来るように」


 おかしいな。

 俺が最下位だと?


 確かに国語、数学、魔法科学は全て満点レベルの解答をしていたはずだ。もしかして魔法術式を省力したのがダメだったのか? 


 うーん。しかしそれでも最下位はありえない。


「おかしいです! なにか不正が働いたとしか思えません!」

「ふっふっふっ! 下位同士仲良くしよ!」


 励ましと共感の言葉を告げられた後、俺は研究施設に向かった。


 無駄に広いから向かうのに時間がかかる。

 転移魔法を使ってもいいが、無駄な魔力は消費したくない。


 そんなことを考えているうちに、研究室の前に到着した。ノックをして「どうぞー」と言われたので室内に入る。


「早速本題なんだけどね」

「はい」


 俺は説教でもされるのだろうか。

 別に慣れてはいるが、苦痛には変わりない。


 さっさと済ませて欲しいところだから助かる。


「ガルド。君は実は、満点なんだ。いや、満点以上を与えてもいい」

「はい?」


 思わず聞き返してしまう。

 それならどうして俺が最下位なのだ。


「国語は文才に溢れ、数学は新たな方式を書き出し、術式は今までの常識を覆すものだったよ」


 続けて、


「君は一体、なに者なんだい?」

「いや……使用人あがりの一般人ですが」


 そういうしかないしな。

 賢者であり、人生二度目なんて口が裂けても言えないし。


「それよりもだ。どうして、君が最下位だったか」

「気になります。ぜひ教えてください」


 うん、と彼女は深く頷いた。

 そして、深刻そうな形相を浮かべる。


「学園長の命令なんだよ。私は反発したんだけどね、認めてくれなかったんだ」


 あの長髭のおじいさんか。

 平民に特待生になられては困ると言っていたが、やはりここまで徹底していたとはな。


 俺はあくまで『最下生』というわけか。


「でもでも。わたしはガルドの味方だよ。安心して欲しい」

「ありがとうございます、先生」


 そう言うと、嬉々として胸を張る先生。

 残念ながら、体躯同様貧相なものだが。


「よし、では少し付き合ってほしいことがあるんだよぉ」


 先ほどは真面目モードだったのだろうか、いつもの語尾に小文字が入るような声音で告げる。


「わたしに術式を教えて欲しいんだぁ!」

「え? 専門のあなたにですか?」

「ああ! ガルドはわたしより優れていると見たのだぁ! だから教えを乞う!」

「は、はぁ」


 そうして、俺は授業をほっぽり出して放課後まで教えることになった。

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