第10話 転生した理由

 自室に戻り、俺とある研究をしていた。

 前世ではなし得ることができなかった、〈死者蘇生リサシテイション〉についてだ。


 ちょうど、この学園は資料が豊富だったので図書室で借りてきて今必死で読んでいる。


 しかし……期待したような内容は載っていない。

 前世の時代に存在した資料(未解読と書かれていた)もあったので、一応読み返してみたが、相変わらず〈死者蘇生〉に関連付けられそうな魔法術式は載っていなかった。


「くそ……」


 思わず、机に拳を振り下ろしてしまう。

 後になって、ジンジンと痛みが走ってきた。


 …………。


 俺には――妹がいる。

 いや、今はいたと言うべきか。


 可愛らしい、アイラと言う子だ。


 純粋で、いつも健気で。

 俺はアイラを愛していて、よく面倒を見ていた。


 そう、これは俺が賢者になる前の話になってくる。

 

 アイラと俺は、六つ違いの兄妹だった。

 冒険者になる前はいつも公園で遊んでいて、ずっと一緒にいた。


 しかしだ。


「今日は森に行きたい!」


 そう言った妹に、俺は一度は「やめよう」と言った。

 けれど、アイラがあまりにもしつこかったので渋々承諾してしまったのだ。


 そうして、俺たちは近くの森へと向かった。

 彼女は冒険者ごっこがしたかったらしい。


 だが――そこで問題が起こった。


 魔物が現れたのだ。

 頭にバッテンの傷があるグラウンド・ベアである。


 今になっては、別段強い魔物ではない。

 ただ、その時の俺は魔法の知識が少ししかなかった。


 どうにか守ろうとしたのだが――


「お兄ちゃん!」


 俺を庇って、妹は死んだ。

 俺のせいで、死んだ。


 俺が弱かったせいだ。

 力がなかったからこうなったのだ。


「生きるには、強くなくちゃいけないんだ」


 その時、初めてそう思った。

 そして俺は死ぬ気で勉強を始めた。


 その過程で、死にかけたことも幾度となくあった。

 だが、無事俺は賢者となり、世界の頂点になりたった。


 でも、それでも。

 〈死者蘇生〉は完成しなかった。


 ただ、近しい魔法は使える。

 〈生命贈与〉、実技披露で行った魔法だ。


 それは、ゼロから一を生み出す魔法。

 これに関しては、意外とすぐ完成した。


 しかし、一からゼロになったものを再度一に戻す魔法。〈死者蘇生〉はいくら努力しても完成しなかった。


 自分の時間が欲しくて転生した理由。

 それが研究時間の確保、そして未来への希望だった。


 未来の技術なら、どうにかなるかもしれない。

 妹を生き返らせることができるかもしれない。


「守れなくて、ごめんなさい」


 俺はそう伝えたかった。

 そして、もう一度抱きしめたい。


 彼女にもう一度、愛していると。

 そう伝えたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る