第36話 カイン=ベオウルフ
聖帝騎士団第三位、カイン=ベオウルフ、彼は素直な騎士である。
曲がった事が嫌いで、常に正義を重んじる、騎士の中の騎士、それが彼のプライドであり、強みであった。
幼い頃から剣の才に溢れ、魔女戦争をきっかけに聖帝騎士団に入団、めきめきと頭角を現し、剣技だけ言えば聖帝騎士団の上位に数えられる程となる。
剣を振るう事、魔女から世界を守る事だけを生きがいとしてきた彼に転機が訪れたのは5年前。当時18歳のライネスとの出会いがカインの全てを変えた。
当時負けなしで、天狗だったカインを完膚なきまでに敗北させた天才、ライネスの台頭はカインに己の未熟さを自覚させるには十分であった。
自分を負かせた存在はあっという間に聖帝騎士団の一位へ駆けあがり、最強の存在としてこの世界に君臨した。カインはそんな彼女を【崇拝】した。
憧れと好意が同居した、傍から見たら気持ち悪い部類の崇拝をライネスに向け、忠誠を誓う。ライネスの物言いを、ライネスの振る舞いを、ライネスの剣技を、模倣し敬愛し続ける、愚直なまでの崇拝は、彼を聖帝騎士団第三位まで押し上げる、そんな彼に聖帝から与えられし12本の聖剣の一つ、炎聖剣『クレスニク』は炎の力を宿した聖剣で、その炎はどんな物体も融解し切り伏せる。
得体の知れぬ魔人機を前に、その聖剣の刀身が姿を現し、カインは聖帝騎士団として構えを取る。
「カインパイセン?」
いつもの口煩いお説教男の印象は微塵と消え、スゥーっと静かに息を整えるカインは隙の一つも持ち合わせていなかった。
「ルルルンは下がっていろ、火傷する」
「カイン?まさか聖帝騎士団三位のカイン=ベオウルフですか?」
カインの名前にフェイツは驚きの表情を浮かべる、聖帝騎士団の中でも指折りの実力者、そんな存在が何故ルルルンと共に?予定外の助っ人にフェイツはニヤリと笑みを浮かべる。
「試すには丁度いい、やりなさい」
フェイツが指示を出すと小型魔人機は駆動音を鳴らしながら、動き出す。
『ギギギギ』
乗り手の悲鳴のような声と共に、その重い巨体はカインに向かい突撃をする。
背面のブースターの様な物から黒い魔力が噴出し、その速度は音速に近い速さに到達していた。
ガギイイイイイイイイイイイイ!!!!!
魔人機が衝突する鈍い音が空間に響き渡る、その衝撃は凄まじく、カインの立つ地面を抉り爆煙が上がる。
「パイセン!!!!!」
思わず声を上げるルルルンの心配は、煙が晴れすぐさま杞憂に終わる。
カインは魔人機の突撃を剣を持っていない方の手で軽々と受け止めていた。
「パイセン!」
「馬鹿な!?」
「どうした?突っ込むだけか?立派な外見は飾りか?」
『ギギギギギギ』
魔人機が唸る、魔人機を押さえていたカインごと地面を抉りながら押し進む。
「……その大きさでこの馬力、とんでもないな」
カインはその力に少し驚くも、表情は冷静なままだ。
「しかし力では負けんぞ!!!」
魔人機の推力をものともせず、カインは魔人機の巨体を片手で押し返す。
「はあ!!!!」
勢いよく手を振りぬき、魔人機を吹き飛ばす。
「馬鹿力すぎでしょパイセン!?」
初めて見るカインの戦いに、ルルルンは目を輝かせる。
「お前、私の事を過小評価しすぎじゃないか?」
「いや、そんな事ないですが」
吹き飛ばされた魔人機はすぐに体制を立て直し、魔力の噴射による加速でカインの側面に回り込むと、腕部が銃口へと変形する。
「なにそれ!かっこいい!!」
「吹き飛びなさい」
フェイツの指示が飛び、魔人機の銃口が光る。
その瞬間、黒い閃光が走る!収束されたエネルギーの塊は確実にカインの心臓を打ち抜く射線で迫る。が、カインはその閃光を剣で弾き飛ばした。
「な!?」
「おおおおおお!!!!」
神業と呼べるその絶技にルルルンは感動の、フェイツは驚きの声を上げた。
「いや!びっくりしたぞ、正直」
絶技ではあったが、カインは冷や汗をかいて自分のとっさの対応に自分が驚いていた。
「そこは、かっこつけてよパイセン!!」
「そんな場合じゃない!!」
魔人機の攻撃は完全に想像以上、あの威力の砲撃を何度も防げる自信はない、なにより長引いたらまずい、地下の空間でこれ以上派手な破壊が行われれば、最悪崩落して全員が生き埋めになる。
ルルルンとシアを守りながらの立ち回りと、
「長引かせる訳にはいかないか……」
カインの気持ちに連動するように、炎聖剣が赤く輝き、刀身が炎に包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます