第35話 策謀のマギリア⑤

 貯水槽に現れたルルルンを確認したフェイツが笑みを浮かべる。


「素直に来てくれるなんて、驚きです」

「シアを離せ!!!」

「あぁ……そうですね、シアさんはこれで用済みですからね」


 フェイツはそう言うと、ゆっくりと丁重にシアを地面に降ろした。その対応にルルルンは少し驚くが、警戒の姿勢を変える事なくフードの刺客に質問をする。


「単刀直入に聞くけど、なにが目的だ?回りくどいことしやがって、直接会いにこればいいだろ!!!俺は逃げも隠れもしない!!!!」


 ルルルンの振る舞いに、フェイツは納得の表情を浮かべる。


「あぁ、なるほど、シアさんの言う通りだ」

「シア?」


 少しだけシアに視線を落とすが、フェイツはすぐにその視線をルルルンに向ける。


「品定めです」

「品定め?」

「意味が解らんぞ」


 カインが口を挟む、赤髪の部外者にフェイツは怪訝な表情を浮かべる。


「聖帝騎士団ですか?なんでそんなのが付いているんです?」

「それは……」

「ライネス様より賜りし使命を全うしているだけだが?」


 カインは実直な男である、世界で一番尊敬し好意を寄せる女性の頼みを実行しているだけ。


「一人で来いとは指示されなかった!問題ないだろう!!」


 カインが大声で屁理屈を言う。予定外の来客だが、フェイツの表情は落ち着いている。


「問題ありません、こちらは聖帝騎士団員が何名いても構いませんから」


 フェイツが手をかざすと指輪が輝きを放つ。


影召喚ソンブラ


 フェイツの影が伸び、その影の中から人の形をした物体が召喚される。


「魔法?」

「指輪を見ろ、魔導器を使っているからあいつは魔女じゃない、眷属だ」

「眷属、って事は魔女絡みって事?」

「そういう事だ」


 少しの状況変化を見ただけで、事態を理解したカインは、ルルルンに警戒しろと目配せをする。カインにとっては、ルルルンはか弱い変な女子という認識なので、守ろうとする姿勢を見せるのが当然である。

 影から召喚された物体が色づき、姿を現す。派手な演出で出てきた割には、特段特徴のないモブキャラのような見た目に、二人は首を傾げる。


「あれ?」


 そんな見た目にルルルンは既視感を覚える。


「あいつどこかで???」

「なんだ、知り合いか?」

「いや、知り合いではない!」


 知り合いではないが、どこかで見たことのある雑魚感……思い出そうとするが思い出せない。


「でもどこかで?」


 既視感の塊のようなモブは、召喚されたものの、まるで操り人形のように項垂れていたが、フェイツの指輪が光ると、ガクンと顔を上げ、目を見開く。

 その目に生気はなく自我も感じられない、感じられるのは得体の知れないオーラだけ。


「なんだあれは?」


 感じたことのない奇妙な気配が場を包み込む。


魔導装着エンチャンティア


 魔導器から光が放たれる。

 光は影となりモブを包み込む、その影は形を成し【まるで鎧のような物】に変貌する。


「影の鎧?」

「違うよパイセン」


 鎧を纏うという表現は正しくないだろう、それは鎧と呼ぶにはあまりにも全身を覆いすぎている。


「まるで……」


 その姿は【魔導機動騎士】と呼ぶ方が相応しいだろう。


「魔人機なのか!?」

「新しい魔人機のテスト相手になってもらいますね」


 新しい魔人機と呼ばれたそれは、装着型の魔人機と呼べる代物で、小型ながらその出力は通常の魔人機を越えるものとなっている。塔の魔女が作り出した新たな魔人機、それを前にルルルンは拳を握りしめギリギリと震えていた。


「……それが魔人機だって?」

「そうですけど」

「どうしたルルルン?」

「なんで……」

「?」

「なんで……」


 ルルルンは魔人機を指さし叫んだ。


「小さくしちゃったんですか?????????」


 迫真の叫びであった。


「?」

「?」


 ルルルン以外が?を飛ばす。


「お前!魔導機動騎士はおっきくてなんぼでしょ!!!????こんな小さくしちゃったら、ロボットじゃなくて、強化スーツじゃん!!!強化スーツは強化スーツでしょ?ロボットじゃないでしょ!!!そんなの、そんなの浪漫がないでしょ!!!!」


 ロマンを説き始めるルルルンに、ポカンと呆れ顔の二人。


「何を言ってるのか知らんが、この魔人機も可能性の一つ、魔女様の力の一端、この力試させてもらうぞ!!」

「バリエーションの一つって事かぁ、もう大きいのは作らないの?可能なら大きいのも作り続けてほしいなぁ!!!」

「私の知るところではない」

「やかましいぞルルルン」

「でも!パイセン!!!!」


 敵から目を離さず、カインがゆっくりと腰の剣を抜く。


「パイセン?」


 そのつるぎは燃えるような紅い剣であった。

 カインはその剣を正眼に構え、燃えるような眼光で魔人機を睨みつける。


「魔女の尖兵に遅れなど取らぬ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る