第34話 策謀のマギリア④

 シアを探すため、焦る気持ちで探知魔法の使用を考えるも、ルルルンは躊躇する。自分の正体を知らないカインが傍に居るからだ。

 魔力の残り香から相手の居場所を突き止めるのは容易だろう。だが、正体を明かす事になる。

 もしカインに魔女だと知られたら、ライネスのように敵と認識され戦闘になる可能性がある。聖帝騎士団の目的は【魔女討伐】なのだから。

 もし魔法をバレないように使ったとしても、少しの迷いもなく、目的の場所に向かうのも不自然……どうしたものかと悩んでいると。


「ルルルン!」


 ルルルンを呼ぶ声がする。


「どうかした、カインパイセン?」

「目的はやっぱりお前らしいぞ」


 カインの指差す先には、空中に浮かぶ黒い炎で書かれた文章。おそらくルルルンがここに来た事により発動するトラップメッセージだろう。しかし。


「よ、読めない」

「お前なぁ……」


 こちらの世界の文字がまだ読めないルルルンの代わりにカインがその文字を読み上げる。


「マギリアの地下水道に来い、青い髪の女」


 青い髪の女、明らかにルルルンの事を指しているメッセージ、どう考えても罠であるが、探知魔法を使う必要が無くなったのと、目的が自分だという事に少しだけ安心する。


「どう考えても罠だな、どうするルルルン?」

「どうするって一択でしょ、パイセン」

「当然だ!!」


 二人の意見は一致していた、その足は地下水道へと向かう、それが罠だとしても。


 マギリアの地下には巨大な水道が存在する、過去水害が多く発生していた名残で、治水の一環として水道が作られた。以降水害は劇的に減り、マギリアの繁栄に貢献していた。

 水路は街の地下に迷路のように繋がっており、水を貯める目的で中央には大きな空間が広がっていた。

 その中央の貯水槽でフェイツはシアと共にルルルンの到着を待っていた。


「ごめんなさい、付き合わせて」


 フェイツがシアに形だけの謝罪をする。どういう理由わけか、シアは拘束の類を一切されておらず、自由に動ける状態で放置されていた。人質と呼ぶにはあまりにも相応しくないその様子は、シアがフェイツに付き添っているようにしか見えない。


「あ、あの……ルルさんにどういった御用なんですか?」

「用、そうですね、品定めでしょうか?」

「品定め?」

「優秀な人材を探していまして、噂でルルルンさんはとっても優秀だとお聞きして、一度お話しをしてみたいなと」

「ルルさんが優秀?」

「はい、違うんですか?」

「いえ……」

「いえ?」

「ルルさんはですね!!すっごく優秀なんですよ!!!!」


 ルルルンを褒めるフェイツに、食いつくようにシアが反応する。


「ルルルンさんの事、詳しく知っているんですか?」

「ええ!!詳しいですよ!!ルルさんは、なんでもできるし、優しいし、人望もあるし、一緒にいて楽しいし、私みたいなドジにも丁寧に色々教えてくれる、お姉さんみたいな……私にとって、特別な人です」


 捲し立てる様にシアが話す、一言も嘘は言っていない。

 ただ、魔女の眷属として生きてきたフェイツにとって、シアの感性は理解しがたいものであった。


「特別?」

「え?いや、その、あなたにもいませんか?一緒にいると、ドキドキしたり、その人のために何かしてあげたくなるような、特別な人?」


 脳裏に塔の魔女の顔が浮かぶ、フェイツにとっての特別な存在、だが、目の前の少女の言う特別とは決定的になにかが違う……。


「私も特別な人のために、ルルルンを探している、お前を餌にして」

「餌だなんて!そんな事しなくても、ルルさんは会ってくれますよ!」

「いや、そういう意味では」

「ルルさんは、とってもいい人ですから!」


 シアと話していると調子が狂う、フェイツは感じた事のない感情に、少しだけ苛立ちを覚える。


「あなたともきっと仲良くしてくれますよ!!ええっと、お名前は?」

「フェイツだ……」


 何故名乗っている?フェイツが自問する、調子が狂う、シアとの会話にフェイツはいつもの調子が掴めずいた。


「フェイツさんとも仲良く」

「そんな悠長な目的だと、本当に思っているのですか?」

「悠長?」


 平和ボケした少女にフェイツは怪訝な顔を見せる。


「私が、ルルルンを殺しに来たと言ったら?」

「え?いや、そんな事ないんじゃ?」

「……なぜそう思う?」


 殺害が目的ではないのは事実だが、それを即答したシアに質問する。


「フェイツさんはきっと悪い人じゃない」

「悪い人じゃない?」


 その言葉にフェイツの思考が停止する。


「は?」


 思わず声が出る、聞いた事もない言葉、フェイツの心が戸惑う。


「私、人を見る目だけは自信あるんです、自分の直感を信じてるんです」

「私は、あなたを誘拐してるんですが?」

「特別な人のためなんじゃないんですか?だから悪い人じゃないです、誰かのためにって行動する気持ち、私わかりますから!!」


 見透かされている、ほんの少しの会話で、自分の心を読み取っているようなシアの発言に、フェイツは恐怖を感じた。当のシアはそんな気もなく、自分の気持ちとフェイツの気持ちを重ねた結果の勘違いなのだが、フェイツには唯々不気味なだけである。


「あなた、能力者?」

「……いえ、私はあんまり役にたたない、ただの見習いウェイターです!能力者なんてとんでもないです、むしろ無能ですし、あはは……」


 自覚がないのか?ただの偶然か、とぼけているとすれば、その態度に嘘の気配がまったくない。相当の手練れと警戒したフェイツは立ち上がり、シアに対して構えを取る。


「そのふざけた態度、油断させるのが目的か?」

「油断?ルルさんと会う前の息抜きって意味ですか?」

「とぼけるな!!」


 かみ合わない会話に、フェイツの指輪が光り、魔法が行使される、フェイツの影が伸び、シアの首にまとわりつく。


「なに?」


 その影はシアの首をじわじわと締上げる。必死にそれを振りほどこうとするが、締め上げている影を掴む事は出来ない。


「く、くるしぃ……」

「ルルルンの仲間、貴様も魔女か?」

「や、めて、フェイ、ツさん」

「気安く名前を呼ぶな、人間風情が……」


 冷静さを欠くフェイツの魔法の力が強まり、シアの首を絞める影の数が更に増えたその時だった。


「シア!!!!!!!!!!!!」


 青と赤の魔法少女と騎士が、フェイツの待つ貯水槽に現れた。

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