旅立ち

 翌朝


 コンコンコン


 レオナルドの部屋へやって来たのは呆れた様子のビオラ王女。そして観念したかのように穏やかな笑みを浮かべた。


「リリア、あんたはすごいわ。人相占いでも私には一生分からないけど、あんたはそれだけ男を虜にする何かを持ってるようね。その魅力いい方に活かしなさい。」


「俺は虜じゃないよ〜寝てもいないし」


「バカタレ。はたから見ればレオ あんたが助けて、あんたが手出した事になってるわよ。いいのね?それで」


「まあそうなるよね」


「とりあえず身なりを整えて来なさい」

「はい」


 妙に落ち着いた様子のリリアは自室へ戻り身支度を済ませる。


 侍女のマチルダが、不安げに鏡越しに口を開いた。

 リリアの背中にバームを塗りながら

「もう、新しい傷は増えませんね。これからどうするのですか?」


「……もうここにも要られません。どこかへ行きます。誰も知らない所へ」


 リリアは最低限の荷物をトランクに詰める。

「後は捨ててください。短い間だったけどありがとう マチルダ」



 エルナンドは部屋に閉じこもっていた。


 食事の間に顔を出すとビオラとレオナルドが向き合って座っている。


「リリア、出るの?」

「はい」

「せめて、スチュアート家にレター送ってからにしたら?一人でどうやってどこ行く気?」


「いえ、これ以上厄介には……」

「はあ。あんたを退治しなくちゃと思ったけど、逆にうちの怪物を退治しに来てくれた様なものね」

「え」

「……エルに国は任せられない。今回で、悲しいけど良く分かった。周りもそう思った。あんたのおかげでね。」


「…………」

「気をつけてね リリア」

「はい。ありがとうございました。ビオラ王女」


 リリアのつぶらな瞳は、生気を取り戻したようにしっかりとしている。媚びない眼差しでビオラをみる。


「何よ。礼なんて。私はただの傍観者だったわ……。そこに当事者になった人居るけどねっ」


「俺もここを離れるよ。しばらく逃げる。その間エルをよろしくっ。お姉さま」

「こら!ったく」


「リリア、来る?」

「え」

「共に旅に出るか、傷が癒えるまで。その代わり男の装いで。女は足手まといだから」

「いずれ行きたい場所に落としてやるよ。はい、出発は俺がこの朝食食べ終えるまで、それ以上は待たない」


 何も言わずリリアは、テーブルに置いてあるハサミを手に取った。


「な なに?!どうしたの」とビオラがたじろぐ。


 ジョキジョキジョキジョキと、ひとつに編み込んでいたマロンブラウンの髪を掴み切ったのだ。

 編み込まれた髪の束とハサミをテーブルに置き

「どなたか小柄な方、男性の服をくださいませんか?」と周りに声をかけた。



 そこへエルナンドが立つ。リリアの行動に驚いた様子で呆然とするが、蚊の鳴くような声でリリアに呼びかける。


「リリア ごめんね 僕が間違ってた。だから……行かないで。僕をひとりにしないで……リリア」

「いえ。エル、あなたを殺したいと思う前に私はあなたの前から消えたほうがいい」


 無表情だがそのしっかりとした口調に、エルナンドは返す言葉が出ないのであった。


「…………」



 ◇◇◇



「で 馬くらい乗れるよね?」

「いえ 乗れません」

「え……」

 リリアは男装しレオナルドと旅に出た。仕方なく馬は一頭。



「知らぬ間に荒み彷徨う心

 どんな姿でも晒してみろ

 優しさ 憎しみ 悲しみ 醜くても良い


 差し伸べられる手を

 掴んでみろ

 歪んでいても良い

 愛してみろ

 偽る事だけはするなかれ」


「なんですかそれ?」


「ん?詩」


「ありがとうございました。……レオナルド様」

「レオと呼べ」

「……はい。レオ」




 ◇


 二人が去ったあと、ヴァロリア王国の国王崩御の知らせが届く。


 その影響で、バミリオンの王は自分の死後を案じ遺書をしたためるのであった。


『バミリオン次期君主に、我が娘 ビオラ カンタブリアを女王とし、指名する。』



 そして、ヴァロリアの国王の遺書には


『ヴァロリア王国 次期国王にフィリップ ヴァロン王太子を指名する。王妃に、リリア スチュアートを指名する。』


「なんだこれは……」

「あー父上 意識なくなる前はロザリー追放したくらいの頃だった?シャンティ家に刺客送った毒殺未遂事件の前だったから。まあ、父上は事件知ってもリリアを王妃にしただろうね。どうするの?兄上」

「…………。」


「フィリップ殿下、先王の遺言は絶対遵守でございます。歴史上一度も曲げられた事はございません。」


「………………。」


「「フィリップ殿下!」」「兄上!」


 また頭を抱えるフィリップであった。



 そんな事は知らず、ロザリーヌとダミアンは穏やかな日々を送る。

 教会学校でピアノを奏でるロザリーヌ。

 見つけた楽譜を優雅に弾く彼女にみな釘付けであった。

 中学まで習ったピアノのおかげである。


「ロザリー、まだフィリップ様は諦めてはくれないかな」

「さあ、最近は色々あって忙しいようだし。バミリオンでリリアに会ってからもしかして……」

「フィリップ様はリリア様に戻ってほしかったのかな」

「そうかもね」


教会で並ぶ二人

「ダミアン、私ね違う世界から来たの……。あの日 突然……」


「違う世界って?ロザリー、今君が笑って立つここが君の世界。俺はその世界で傍に居たい。どんな時も俺を頼って。いつまでも共に生きよう。」


「あ……はい ダミアン」


 教会で二人はまだ叶わぬ結婚式の真似事のように口づけをした。


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フィリップのその後が気になりますが・・・

最後までご覧いただきありがとうございました ^^

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悪役王女ですか?悪役になんてなれません。私はただの愛に飢えた人妻です。 江戸 清水 @edoseisui

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