魔女狩り

 教会の前に勢い良く馬から降り叫ぶ騎士団の兵、その声にダミアンとメリアが飛び出てくる。


 バミリオンからの進軍を知り、すぐに宮殿へ戻ろうとメリアはロザリーヌを呼びに教会学校へ戻った。


 しかし、メリアは飛び込んできた光景に顔面蒼白である。


「神父様…………ロザリーヌ様は……?」


 泣きじゃくる子どもたち、神父は額から血を流している。


「神父様!――――何が」

「白装束の者らが連れ去りました……魔女狩りの者達」


「その者らはどこに どこに居ますか!」

 ダミアンが声を荒げる。


「ああ 分からない 分からないが、スカラが暮らす森の近くと聞いたことが」


「メリ 神父様を頼む」


 ダミアンは兵が乗り付けてきた馬にまたがりゲリアンのスカラ族の元へ血眼で走る。


「はっ はっ――――頼む もっと早く 早く走れ」


 その頃、パルルからシモン王子も向かっていた。

 ヴァロリアの危機と聞き、パルルの兵を引き連れ先頭で一足先に走っていたのだ。





 ゲリアンの森 スカラ族の集落でダミアンは息を切らしながら尋ねる。


「ロザリーヌが 魔女狩りに―――白装束の……その者たちの、アジトは……」


「なんだって!ロザリーヌ様が?!」

「おいっ案内するぞ 今すぐだ!」


 ロザリーヌがかつて足を怪我したスカラの男の子を助けた話がおとぎ話の様に語られ、彼らにとってロザリーヌは姫であった。

 シモンが毎度ロザリーヌを褒めちぎっている事もあり、みな協力的なようである。


 スカラの男たちに付いて馬を走らせるダミアン、傾斜の先に岩の壁を並べた不自然なものが見える。


 馬を止め、その傾斜を身を隠しながら上る。


「我らを救い給え この災いを取り除き 明日の希望、穀物を我らに与えてください 今この魔女を生贄に この世の悪を、不幸せを全て―――――」


 ダミアンの目に飛び込んだのは、木の十字架に縛られたロザリーヌ、その周りには既に炎の輪が燃え上がる。


「う゛おおおおおお――――!!!」

 雄叫びを上げながらダミアンが凄まじい勢いで走り来るのを見た白装束の者らは逃げ惑う、それをスカラ族が追いかける。


 ダミアンは一直線に火の中に飛び込んだ。


「くそ―――――」


 バリ バリバリバリ 

 十字架を折り抜き、担いでロザリーヌを火から遠ざけた。


 そのまま倒れ込む二人、急いでロザリーヌの縄を解く。

 しかしその白い頬には次から次へと涙が筋となって流れ落ちていた。


「ロザリー」

「ダ……ダミアン  はあ はあ わたし……誰かに愛されたかった 狂おしいほどに……あなたに愛されたい、もっと……こんなに苦しいのね 失うと 思うと 欲張りね……」

「ロザリー 何を。もう泣かないで、大丈夫だ ごめん 一人にして……ロザリー」

 と華奢で小さな体を力いっぱい抱きしめるダミアン。


「ダミアン……わたし あなたを愛して 初めて知ったの こんなに……こんな想い 初めて」


 あとから来たシモンが叫ぶ。


「ダミアン!!」

 その手には銀の杯 不自然に置かれた杯を見つけたシモンは毒を疑った。


「ど 毒!毒を飲まされたのでは?!!ダミアン!」


 二人はロザリーヌを馬に乗せ、杯を持ち王都へ走る

 項垂れたロザリーヌを抱きながら片手で手綱を引き、ダミアンは耳元で祈るように語り続けた。


「絶対に 君を救う 失ってたまるか まだまだ愛されるべきだ 俺にもっとずっとこれから……聞こえるか ロザリー ロザリー」




 薬師ジュセリアの店


 カランカラン


「な 何さ もう悪いことは……どうした!!」


 抱えられたロザリーヌの様子に驚いたジュセリアにダミアンは叫ぶ。


「毒!作るなら解毒もできんだろ!薬師の魔女!!」

「おいおい 落ち着きな 男前」


 ジュセリアはロザリーヌの目や脈、口の中を調べ

 シモンが持つ杯に、液体を入れた。


「うん ちょいとお待ち」

 なにやら、調合し器に入れた粉を湯で溶きロザリーヌに飲ませる。


 すると、ロザリーヌは

「う゛ うえーうえー」と液体を吐き出した。

 ダミアンは背中をさする。


 分かっていたかのように、ボウルでそれを受けながらジュセリアは落ち着いた様子で語る。


「飲まされたのは毒薬ではない。おそらく痛みを抑えるような薬だが、量が多かった為朦朧としたのだろう。摂りすぎると死ぬがな。しかし、相当な量飲まされていたかな、吐かせる薬を飲んだから大丈夫だ、ほら、全部出しな。」


「う うぅぅ う゛あ――っ」

 シモンは助かると聞いてホッとしたのか、まるで子供のように泣く。


 ダミアンは、涙を一筋頰を伝わせるも、潤んだ瞳でしっかりとロザリーヌを見守っていた。


「感謝する……薬師の魔女」

「魔女じゃないわ あんた正解だね。よくうちに来たね」


「さ、水を沢山飲みな」


 ジュセリアの店の奥にはベッドも置かれている。ロザリーヌをそこへ寝かし側で皆見守る。

 ジュセリアがロザリーヌの足や腕に負った擦り傷を手当していく。


「あ シモン様 なぜ」

 ふとダミアンはシモンが居ることに疑問を感じた。


「あ 西国のバミリオンが ヴァ ヴァロリアに攻め入ると聞いて、あ……兵」


 シモンは自身が引き連れていた兵を放ってきた事を思い出す。

「もう 知らない……」


 落ち着いたロザリーヌが口を開く

「ダミアン」


 それを見たジュセリアがシモンを連れ店の前に戻る。

「あんた、お邪魔虫だよ。な?」

「あ……はい。」


「あの、あの騎士のダミアンに伝えて下さい。ぼ、僕は軍を率いて来ますので……気にせずロザリーヌ様と居て……と」


「あんた 良いやつだね。美男だね〜」

 去りゆくシモンに、手を振るジュセリアであった。



 ダミアンはロザリーヌの髪を撫で口に巻き込んだ髪を取りながら穏やかな笑みを浮かべ呟く。

「もう大丈夫だよ ロザリー」


「ありがとう ダミアン ありがとう」

「お礼ならジュセリアさんに」

 薬師の魔女と呼ぶのは止めたらしいダミアンが、ジュセリアを呼ぶ。


「気分は?どうだい?」

「はい。急にスッキリしました」

「ああ 良かった しかし、あんたも苦労するね。かわいそうに」

「いえ。恨みを買うのはいつものことで……ジュセリアさん、ここ病院みたいですね」


「ああ、あんたの裁判でね、こんな私でも反省したんだよ。今じゃ王都の頼れる薬師さんだ。風邪から腹下しから」



 カランカラン


「ダミアン!ロザリーヌ様っ!」

 メリアがやって来た。

 目を真っ赤にし泣くメリアはすっかり落ちついた二人のもとへドタバタと走り寄る。


「あれ お前 軍は?」


「ロザリーヌさまーっ!!!ああ 良かった。あ、魔女狩り達はスカラ族が捕らえてさっきシモン王子が軍と共に連行していきましたよ ロザリーヌさまあ!!」


「え?シモン様軍に、罪人まで引き連れて大変だろ」

「軍はもう用無しだから」

「え?」

「バミリオンの軍は撤退したらしい」

「なんでだ?」

「さあ、よく分からないけどマシュー団長が怖かったとか??」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る