リリアの陰謀は止まらない

 アンリー第二王子がロザリーヌの部屋へゆっくりとした足取りで入り、皆に囲まれロザリーヌに抱かれるフィリップに言う。


「兄上、起きろよ」

 皆のすすり泣いていた声がぴたりと止む。


「ほらね。着てて良かった。」

 アンリーに強く言われ、革を重ねたアーマーをフィリップは服の下に着ていたのだ。


 ぬくっと起き上がったフィリップから落ちる矢を皆目で追う。


 ぽとりと落ちた矢を

 いつの間にやら居たビオラ王女が拾い上げ凝視する。


「これは……」

「どうされました?」

「これはバミリオンの矢ね……」


 それを見たダミアンも「たしかに、ヴァロリアの矢ではないですが、民がつくったのでは?」


「いえ、間違いなくバミリオンのもの、だって先端が尖ってない。雑な作りだもの……この羽にも見覚えがあるわ」



 その頃、いち早く情報を得たゲリアンの森のスカラ族が慌てていた。


「バミリオンがヴァロリア王国に進軍しているって?」


「間違いない!バミリオンから戻った奴が言ってたぞ、直に軍はヴァロリア入りするだろ」


「え?!なんで」

「さあ」

「とりあえず、今ヴァロリアは暴徒が暴れてるから、パルルのシモン様に言おう!」


 ゲリアンの開拓にスカラ族の者達は報酬を貰い働くうちにすっかり、シモンと打ち解けていた。


「分かった。お前パルルへ走れ 一番早い馬を!!」




 バミリオンへ出したフィリップの婚約お断りの書状が何者かの手が加えられ王に渡ったのだ。


 その内容は、『バミリオンの領地・資源をヴァロリアに渡せ。さもなくば王女は永遠に監禁する。命の行く末は知らない。』


 とすっかり脅迫文書に変わり果てていたのだ。


 全ては、リリアがありとあらゆる同士を集い成し遂げた陰謀である。


 魔女の噂も、民を不安と恐怖で煽り、不満を怒りに変えさせたのだ。

 そして、暴徒化した群衆に紛れてバミリオンから密入国していた者がフィリップに矢を放ったのである。


 命中率は素晴らしいが、やはり技術レベルが低いため鋭利さに欠けた矢がフィリップに致命傷を負わさずに済んだのだ。



 今、バミリオンの軍は誘拐監禁されているビオラ王女を奪還するため進軍していたのだった。



 ◇◇◇



 宮殿に押し寄せた群衆は鎮静化され数日、暴徒が暴れた王都は修復作業を進めていた。

 ロザリーヌは教会学校を心配し、ダミアンとメリアとともに連日足を運ぶ。


 そして、バミリオンの数十人の小隊に続き、時間差で数百の兵がヴァロリアの国境を超えたとの知らせが届く。


「数百とは二百か?五百か?」とマシュー団長が机にドンと手をついて声を荒げる。

「わかりません」 


「では、小隊に指揮官が居るはずだ。こちらは戦など望まない。私と二十名で行く。ダミアンが戻ったら万が一に備えろと伝えろ」とマシュー団長が言う。


 ロザリーヌとダミアン、メリアは王都にいる為、騎士団の一人が呼び戻しに行くこととなった。



 そしてマシュー団長率いる二十名の小隊は宮殿から出発した。



「何事?」とビオラ王女は宮殿をうろうろし、アンリーを捕まえた。


「あなたのお国が攻めてきてるって」

「は?」


 腑に落ちないビオラは、険しい顔で目をひんむく。


「小隊が来るのかしら?」

「小隊に続いて、数百の兵が押し寄せてくるみたい」


「行くわよ」

「え?」


 ビオラは、侍女ブレンダと共に颯爽と馬にまたがり、自ら馬を走らせる。


 それを見たフィリップも驚いたのだ。

「な なんだあれは……何処へ行った?まさかバミリオンに帰るのか?」





 国境付近の草原


 既にバミリオンの小隊とヴァロリアのマシュー団長率いる小隊は、一列に並び合図の時を待ち静止している。


「バミリオンの兵、我が国 ヴァロリアは一切争うつもりはない、争う理由もない」

 静寂の中マシュー団長の声が響く。


「ヴァロリア王太子の宣戦布告がこの戦の理由だ!!我々はバミリオンを支配させない!王女ビオラを救えーーーー!」


「「オーーーーーーー!!」」


 全くもって聞く耳無しのバミリオンの指揮官。

 交渉の余地なく、いきなり戦闘開始である。

 飛んでくる矢を盾で弾くヴァロリアの兵。その間にどんどん距離を縮めてくるバミリオンの兵。


「やめろー!!戦うつもりはない!!」マシュー団長が叫び続ける。




 と、そこへ二頭の馬が勢い良く走り込んできた。


「お止めなさい!!」

 ビオラ王女である。

 そのどすの効いた女の声が響くと、ピタリと止まる兵。


「武器を捨て、敬礼!!」

 とブレンダが叫ぶ。


 ビオラは、ゆっくりとバミリオンの指揮官まで馬で進む。

 固唾をのんで見守るヴァロリアの兵達。


「あんたら、踊らされたのよ。何を理由に攻め入った?」

「ヴァロリアの王太子が宣戦布告を」

「は?」

 書状の詳細を聞いたビオラは口をあんぐり開けてから、笑い飛ばした。

「それ、私との婚約お断りするただのレターだったはずよ。……誰かが書き換えたわね」


「え?」

「とにかく、この戦は間違い!間違いでしょ?ほらっ早く、次の軍止めてきなさい。戻った戻った!!」


 指揮官は遠目からマシュー団長に会釈したように頭を下げ退散する。


「なんだ……?」


 みなぽかんと、青々と茂る草原で立ちんぼであった。



 しかし、時を同じくして本物の誘拐事件が教会学校で起きたのだった。

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