第41話 もしかして

 調査隊のいる建物に行ってみる。調査隊専用ではなく町の自衛をするために話し合いや武器を置いている場所を借りているとのことだった。

 窓から中を覗けば大きな机に紙を広げて話し合いをしているようだ。一人子供がいた。誰かの子供か、まさかあれが西の森の向こうから来た人か?

 そうしていたらその子供と目が合った。気まずかったが頭を下げておく。子供は驚いた風にしてから自分も頭を小さく下げた。周りの奴らに気付かれたら気まずさが倍増してしまうので建物の入口へと逃げるように進んだ。


「あんたもか?」


 入口には椅子に座って退屈そうにしている男がいた。


「多分思っているのと同じ用事だと思う」

「だよなー。来るやつ来るやつ会いたい話したいっていうから。それで俺は同じように言うわけよ。申し訳ありませんが明日以降にお願いします。でも本人が良いって言ったらだから確定じゃないぞ」


 男はちちちと人差し指を立てて振る。


「ちなみに子供の姿か?」

「そーなんだよ。あれが本当なのか年を変えられるのかは知らんがね。ま、協力的でありがたいわ」


 よく見れば男は足を怪我しているようだった。

 今回の調査のせいなのだろうか? だとしたらエータに何か装備品を考えないとだ。いい的にしかならない。


「ありがとう。また明日来てみる」

「待て待てこの町に泊まってるなら場所を聞いといてくれって言われたんだ」


 紙とペンを出されたのでそこに宿泊先の名前を書く。


「ん?」

「どうかしたか?」

「いや、なんでもない。じゃ明日以降でよろしくな」


 男は手をひらひらと振ると紙は胸元にしまった。


 さて、どうしたものかな。

 素材の売りついでに食料でも見てくるか。


 売るものを売って新鮮な果物を買って帰ることにした。多分グロリアが何か買ってるだろうし被るくらいなら聞いてからまた行くことにした。


 戸を開けたらグロリアがエータの杖を使っていた。部屋いっぱいにいくつもの大きな水の玉が浮かんでいる。俺に気付くと全て消してしまった。


「なにしているんだ」

「ちょっと実験。ついでに魔力補充よ」

「その青いの役に立ったぞ」

「そうなの? 使ったのねこれ。どのくらい使ってた?」

「グロリアと別れてからのほぼ全ての水分はそれで出してたけど? 飲んだり煮たり体洗ったり。グロリアの渡した杖は空にしたからな」

「あれはそんなに使えるものじゃないからね。ね、ケーシャも借りた?」

「エータが使っていいって言ったし、あいつが寝倒れたときとか勝手に使ったけど」

「ふぅん。その割には魔力残ってたのよね。節約したわけじゃないみたいだし。見た目よりも魔力量があるのねこれ」

「節約なんて考えなかった。杖がそれ一本てわけでもないし……」

「そうよね。なら使い放題よね」


 流石に使い放題とは思わなかった。それならあの時風呂につかれたのではないかと思ってしまうのを頭を振ってなくす。過ぎたことはいいんだ。


「エータのリュックのことなんだけど」


 グロリアにも相談しようと思っていたんだった。


「危ないわよね……誰でも出し入れできるから」

「入ってるものじゃなくて、リュック自体が危ないかもしれなくてな」

「ああ。杖が出てきたりってこと?」

「……それもあったか」


 あれはグロリアと別れた時のことだからすっかり忘れていた。元々エータは何でも出すから気にしなくなってきている。


「それじゃないの?!」


 驚くのも無理はない。


「あのリュックに物を入れると時間が止まるかもしれない」

「え、まさか〜そんなことあったりなんてするわけ……あるのかしら」

「エータが後半出してくれたパンが焼きたてのようだったぞ。ふわふわでいい香りがした」

「うそ。ちょっと出してみようかしら?」


 すすすと部屋に入ったグロリアがパンを片手に出てきた。というかまだあのリュックにパンが入っていたのか。グロリアが手にしているのは丸い半球のパンで上のところにクリーム色の層がある。この間エータが食べていたパンだ。


「知らないパンがいっぱい入ってたわ」

「めろんパンとか言ってた気がする。すぐべちゃべちゃになるらしい」


 いい香りがふわりとしてくる。


「べちゃべちゃ? そうは見えないわね」

「食べてみるか」

「え、怒られないかしら」


 本人があの時食べるか? と気楽に聞いてきていたのでそれはないと思うが勝手に食べるのは盗人と変わらない。


「いや、冗談だ。エータが起きてからにしよう」

「その方がいいわ。その時に色々話し合わないと」

「すぐに死体になりそうだよな」

「やめてよ。縁起でもない」

「バレたら可能性とかの問題じゃなくなるだろ」

「そうだけど」


 時に人間の方がずっと危ない。気をつけてやらないといけない。


 日が落ちる前にどろどろに土で汚れ、葉っぱをつけたロアが戻ってきた。グロリアに一瞬で綺麗にされていた。

 久しぶりで嬉しかったのか俺にそのまま突進してきた。尻尾をバフバフとふっていてかわいいな。



 明日に来れば、と言われた人数が多かったのは予測していたが、実際集まった人を見れば俺の予測か甘かったのだと実感した。入口が溢れていて俺は諦めて帰ってきたのだった。都合よくはいかないものだ。

 そして空いてしまったまとまった時間に何をしていいか分からず剣の点検をしている。その他武器や道具を広げて全体点検。時間も取れないしとサボっていたことなのでちょうどいい。

 そんなことをして時間はもうお昼過ぎのこと。


「俺どのくらい寝てた……?」


 そーっとエータが起きてきた。


「一日くらい」

「まだセーフ!」


 ばっと両腕を広げるエータ。


「どっからがアウトなんだ」

「一週間とか」


 基準がよく分からない。怪我をしたわけもないのに一週間も起きなかったらそれはもう手を尽くして叩き起こしているだろう。


「体調はどうだ? 痛いところとかないか?」

「大丈夫。しっかり寝れたからかスッキリしてるよ」


 それはグロリアが夜に一回も目覚めないのを心配して回復魔法をかけたからな気もするが黙っておくか。


「ならいい。何か食べるだろ」

「その前に水飲むわ」


 エータが青い杖を取り出して水を一口サイズに並べるとぱくぱくと飲んでいく。

 町に来てからもそのスタイルで水飲むんだな。

 飲みながら起きてきたばかりなのにエータは部屋に戻っていく。

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