ニ章

第29話 はじめまして

 ケーシャがご飯を作るって言うから野菜をむいたり切ったりと手伝っていた。

 そしたら森の方、といっても全面森だが。ザクザクとたすたすと足音がした。

 音がした方を見れば大きなわんこがいた。俺が乗れるのではないかという大きさのわんこカワイイ。でも犬というよりは狼のようなシュッとした凛々しさがあるけれどカワイイ。

 そちらに気を取られていたが大きな帽子を被ってマントを着ている女性も傍らにいた。草がいっぱい入ったかごを持っている。


「あら、きみがエータ君?」

「はい瑛太といいます。あなたがケーシャの仲間の方ですか?」


 ケーシャもケーシャ、としか名乗らなかったから名字いらないかなと名乗らない。面倒なのが強いけど合わせることは大事だろう。


「はじめまして。私はグロリア、こっちはロアよ。ケーシャが迷惑かけたでしょう? ごめんなさいね。でもあの人形効いたのね」

「そう、ですね」


 効きはした。別にあれが悪いわけではない。


「ご飯作るの手伝ってくれてたのね。ありがとう。あ! 空間石もありがとう! カバン新調できたのよ。今夜はどこで寝るつもりなの? こっち? それとも戻るのかしら」

「あーあのな、グロリア」


 嬉しそうなグロリアさんに言いにくそうに自分の頭に手をやりケーシャが事情を説明してくれた。


「何やってるの馬鹿ケーシャ!! エータ君ごめんね……もう、こんなの選択肢ないじゃない!」

「ははは」

「空間が壊れなかっただけいいかもしれないけど、もっと慎重に、考えて行動して」

「……悪かった」


 グロリアさんが仁王立ちで小さく座ってしまっているケーシャのことを見下ろしている。

 そこまでのことだろうか。

 個人的にお部屋さんに戻れないことは辛いけど一応ケーシャのおかげで旅の準備は出来ている。

 十分ごろごろしただろう? とあの空間に言われた感じがしなくもないのですでに諦めがついてきている。


「あの、いいんですよ。俺」

「でもケーシャが戻れるって決めつけて外に連れ出したのは事実だわ」

「でも断って中に入れたのに外に出ると決めたのは自分ですから」

「そう? ケーシャ良かったわねーエータ君が優しくて」

「そうだな」


 悪かったな、とケーシャが俺の頭を撫でる。

 いくつだと思われてるんだろ。


「煮すぎると悪いからそろそろ調味しないか?」

「煮てたの忘れてた。そうするか」


 面倒になったので話題をそらす。

 野菜のゴロゴロ入ったスープは塩と具材のシンプルな味付けだった。それにあの空間から持ってきたというパンに焼いた肉に果物で晩御飯だ。

 空を見れば日が傾いてきている。空の色が変わってきていた。


「寝袋持ってるのね。横になるならなるべく下に石がないか見たほうがいいわよ。寝心地にかかわるから」

「なるほど」


 木に寄りかかって寝ても熟睡できないだろうと寝袋で寝るつもりだったが地面のことまでは考えなかった。そういえばあの空間は草は生えていたけど邪魔な石がなかった気がする。クッションに埋もれていて分からなかっただけかもしれないが。

 助言どおり良さそうな場所にレジャーシートを敷いてから寝袋を置いた。厚いシートがあればもっと気にしなくてもよかったのか。


「私達のことは気にしなくていいからね。私はこれから少し作業するし」

「俺は見張り。明日この先のことを相談しよう」

「分かった。じゃあお言葉に甘えておやすみなさい」

「はーいおやすみ」

「おやすみエータ」


 そしておれは寝袋に潜り込んだ。思っていたよりふかふかとしていてよく眠れそうだった。

 ケーシャは火を見ている。その向こうにグロリアさんにロアが寄り添っているのが見えて羨ましい。仲良くなったらあの毛並みをひとなでさせてもらいたいものだ。

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