第30話 したいこと?

「爆睡するとは思わなかった」


 目が覚めたらこれだ。呆れ半分後は納得ってところか? まだ寝袋に包まれた俺の横でケーシャが座っていた。

 見張ってたというわりに元気だな。これが体力差か。


「よく寝たわおはよ」

「……おはよう」


 寝たりないが周りが明るいので起きることにする。外に出たのだから夜行性ではないので何とか体内時計を矯正したい。でもねむい。

 グロリアさんとロアに挨拶を、と思ったが。


「あれ? 一人か?」

「グロリアは薬草集めに行ってる」

「昨日既にかごいっぱいだったのに?」

「あれ薬に加工すると十分の一になるんだよな」

「そんなに凝縮するのか」

「凝縮、なのかあれは」

「すり潰したりするイメージしかないからそんなに体積が減るのはそういうことなのでは?」

「よく分からないんだよな……魔法はだめで」


 この世界の薬はまほうがかかわってくるのか。

 そういえばこの辺の魔物は魔法に弱いからとか言っていたような気がする。ケーシャは物理だったな。俺は魔法はどうなのだろう?


「はいこれ」

「ありがと」


 パンとスープを渡されてぼんやりとしていたが食べた。朝から肉がごろごろ入っている。


「で、エータはどうしたい?」

「どうとは」

「したいこととか」

「したいこと」


 元の世界に戻りたいような、お部屋さんの中に戻りたいような。首をひねって考えるが特になし、といった感じである。寝れればいいというか。

 しかし、そう言えない顔が目の前に一つ俺の顔を見ていた。


「まずこの世界を見てみようか、な?」

「そうか! それなら少し俺にも案内できるな」

「うんうんヨロシクー」


 よし。この回答でまあまあ当たりだな。あの中に戻りたいとか言ってまたしょんぼりさせるのは俺でも胸が痛い。


「でもすぐにここから出発できないけどいいか?」

「何も急がないからいいけど何かあるのか?」

「グロリアが一応薬を作って持っていきたいっていうからそれ待ちだ」

「薬」

「約束したわけじゃないけど売っておいても良いかなってことよ」

「グロリア」

「あ。おはようごさいます」

「おはようエータ君」


 タイミングよく昨日と同じくらいの量を抱えたグロリアさんが戻ってきた。ロアも背中にかごを乗せて手伝っていたようだ。見分けがつかないがあれ一種類ってことはないだろうすごい量だ。今俺たちがいる場所に似た草がないのは取り尽くされたからか?


「西の森の先には進みたいしね。あと数日は待ってね」

「いえ俺にお構いなく好きなだけどうぞ」

「ふふありがとう」


 そうしてグロリアさんは作業をしに少し離れた。

 この世界で薬っていうとポーション的な物か? 勝手に軟膏や湿布を思い浮かべていたが定番はあれではないのか。飲んで回復解毒に復活とかできるあれ。


「西の森って?」

「まだ誰も通り抜けたことがない森で西側にあるからそう呼ばれている。抜けた先に何かあるだろうから俺たちはそこを目指してたんだ」

「じゃあそこに向かうのか」

「西の森というよりまず手前の町だけどな」


 ケーシャが顎に手を当てて俺をじっくり見だした。


「な、なんだよ」

「西の森って倒し方の判明してない魔物がいて通り抜けられないんだけど、それを別にしても魔物はいる」

「それはな」

「そもそもこの森にもいる」

「そうだな? 俺はまだ見てないけど」


 何だろう、ということはない。これはあれだ。


「強くなったか?」

「強さどころか体力に不安あり」


 俺は両手を軽く上げて降参した。再開するのであろう。覚悟はしていたぞ。


「ならまずは言ってた通り受け身からだな」

「戦えないのに?」

「そうじゃなくて転んだ時に使うだろ」

「なるほど大事だな! 捻挫したら困るしな」

「その程度で済めばいいんだけどな骨折とかしたらまずいだろう」

「……まずい」

「いくらグロリアが治せると言ったってどんな状況になるかわからないからできることは増やした方がいいだろう」


 俺は頷くしかなかった。日常生活ただ歩くだけでなく急ぐ時に走ったりはしていたが、それは平地の話だ。整えられたアスファルトの道路だ。ここの道は整えられてはおらずそもそも土だしそこには石もあれば木の根も草もある。そんなところでなにかに追われて走ったら転ぶ確率は高い。

 戦うというより逃げたほうが断然生存率は上がるだろうから安全に逃げるために転ぶ前提でということだな。再確認した。


「教えてもらう前に着替えていいか?」

「ああ」


 俺はリュックから服を取り出しす。後ろを見たがグロリアさんは離れたところで背中を向けた状態なので隠れて着替えなくてもいいだろう。


「あれ? 数字なんて書いてあったかな」


 いつの間にか付いてたあのキーホルダーに模様が増えていた。数字で3、と書かれている。

 あの時見たのは裏面だったのか? ひっくり返したら線だけ入った無地の面が出てきた。これがあの時見たものだ。

 誕生月でも誕生日でも記念ナンバーでもない3。日本人に奇数を好む人は多いとどこかで見たしそういう類いだろう。


「お待たせ」

「よし、するか」


 ストレッチのような動きをしていたケーシャに声をかける。目指せ怪我をしない転び方。

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