若き狼

 狼が群で狩りをした。獲物の取り分は群の頭領から偉い順に多く取っていくのである。

 狩りに参加し始めたばかりの若き狼に回ってくる頃には、取り分はかなり少なく下っ端の彼はいつも腹を空かせていた。ずっとそんな調子だったのである時、上位の狼に自分の空腹を訴えて言うには

「僕はまだ若く成長する余地がありますし、成長すれば群にもっと貢献出来ます。その為にはもっと多くの肉が必要です。もっと僕に獲物を恵んでくれませんか?」

 それを聞いた上位の狼が答えて言った。

「お前はまだ群に入って経験が浅い。群の仕組みをよく解っていないお前に肉を多く与えるわけにはいかない」


 若き狼には多くの肉が必要だった。しかし、群での狩りは腹を満たすほど手に入らない。なので群が休んでいる深夜と早朝にも小さな獲物を求めて単独で狩りに出るようになった。まだ若かったので体力は有り余っていたのである。それでも彼の飢えは満たされなかった。

 そんな二重生活が続いたある時、山の麓で人間が熊に襲われているのに若き狼は出食わした。

 母熊が人間を襲っている隙に子熊を狩ろうとした彼の行動が母熊の気を逸らし、結果として人間を救った。

 人間は助けて貰った礼にと自分が持っている食べ物を分けてやった。それからその狼は何度か人間と接触し、狼の群よりも厚遇してくれるのでやがて人間と共に暮らすようになった。

 こうして人間の群に入り彼らの友となった狼はやがて犬と呼ばれるようになり、狼から人間を守るようになったのだ。


 それから程なくして、人間の家畜を襲う狼の群に、犬となった彼が果敢にも立ち向かった。奇しくもその群は彼がかつて属していた群だった。彼の上位だった狼が彼に気づいて罵って言う。

「折角群に入れてやっていたのに、感謝もせず群を去り我らに楯突くとは、この恩知らずの裏切り者め!」

 彼は涼しい顔で答えた。

「アンタ達が僕に充分な肉を与えてたら、こんな風に再会する事はなかっただろうよ」


 若者に与える量が少なければ、彼らはいずれ去っていくだろう。再会した時、このように敵にならなければ良いのだが……。

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