美人を醜女にする夫

 花よ蝶よと育てられた生娘が居た。手塩にかけて育てられたからか、街を歩けば誰しもが振り返る見目麗しい顔立ちとなった。

 娘が年頃になると何人もの男達から数え切れない位、美人だといって求婚された。娘は自分に釣り合う男が居ないと感じたのでにべもなく断り続けた。


 ある時、とある男と娘は出会う。その男はそれまで求婚してきた男とは違った。その男の口から出たのは、

「お前不細工だな。自分以外に美しい女が居ないと思い上がっているその態度が一番不細工だよ」

 それまで不細工だなんて言われた事なかった娘は心臓を金槌で叩き割られたような衝撃を受けた。

 それから娘はその男に執着した。娘が纏わりつく度に男は「お前不細工だな」と言い続けた。

 半年と経たぬ内に娘の方から求婚して二人は夫妻めおととなった。


 結婚してからも夫は事ある毎に妻に「お前不細工だな」と言い続けた。そう言っても妻は喜んだし、街を歩けば誰しもが妻を振り返ったのである。

 しかし、月日が経つにつれ妻を振り返る男の数は段々と減っていった。世辞にも妻を美人だと褒める者が目に見えて減っていったのである。

 やがて自分の妻が不細工だと噂されているのを耳にした夫が嘆息して言った。

「なんて醜女しこめだ。こんな不細工な女を妻にするんじゃなかった」

 それを聞いた妻が応えて言った。

「やっと貴方の好みの女になれたのね。これからもよろしくね。旦那様」


 口癖はやがて現実となるから気をつけねばならぬという事をこの話は説き明かしている。

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