シチニンミサキ


七人しちにんミサキ】

 七人組で集団行動する妖怪(または幽霊)。遭遇した者は高熱にうなされ、最終的にはとり殺されてしまう。死んだ者は七人組の一人に加わり、元いた中で最古参は脱退して成仏するので、常に七人を維持している。



「この話、酔っ払いから聞いた話なんで、あんまり真に受けないで下さいね」


 そう前置きした設楽したらさんが語ってくれたのは、彼の父にまつわる話だった。

 設楽さんの父親は仕事終わりに居酒屋をはしごするのが癖だったそうで、帰りは大抵日付を越えてしまう。顔は真っ赤でろれつが回っていない、という典型的な酔っ払い像で帰ってくる。息子を部下だと勘違いして怒鳴り散らすこともあったそうだ。ストレスが溜まっているのだろう、と理解はできるが、正直迷惑だった。

 しかし、その日は様子が違い、異様にテンションが高い状態で帰宅した。ろれつが回っていないのは相変わらずだが、気持ち悪いほどの満面の笑み。仕事がうまくいったのだろうか、と思ったのだが、そうではないらしい。

 父曰く「とんでもないべっぴんさんと遊んだ」とのことだ。

 いつも通り居酒屋をはしごしていると、スタイル抜群の美女七人と出会った。すると美女達は「一緒に飲みましょう」と誘ってきたようで、流されるままに仲良く酒盛りしたという。しかも代金は女持ちという好待遇。しょぼくれた中年親父のために金を払ってくれる、奇特な女性達だったそうだ。

 危ないキャバクラだったら怖いお兄さん達が出てきて、有り金全部ぼったくられていそうな状況である。設楽さんは念のため父親の財布を確認したのだが、お札もクレジットカードもきちんと入っていた。かもにされたわけではないらしい。

 とすると、どうせ夢でも見たか酔っ払いの戯言たわごとだろう。これ以上付き合っていられない設楽さんはそう結論づけて、玄関先に父親を放置したまま就寝した。

 次の日。

 設楽さんの父親は玄関で寝転がったまま冷たくなっていた。司法解剖の結果、体内から致死量の違法薬物が検出された。

 酒好きの駄目親父だがクスリに手を出すなんてあり得ない、と設楽さんは言う。

 薬物所持を疑われて家宅捜索をされたが、薬物及び関連道具は一切見つからず。なんらかの要因で誤飲した可能性が浮上したが、結局真相は不明のまま。設楽さんの父親は、公には事故死として処理された。


「前後不覚になるまで飲む人だから、道端のクスリを食べちゃったのかもしれないけど……もしかしたら」


 父親が話してくれた七人組の謎多き美女。もし彼女達が夢ではなく実在する人物だとして、酒盛り中に違法薬物を混入させていたとするなら。

 突飛な話だし目的も不明だが、あり得るかもしれないのでは?


「お酒はほどほどにした方がいいですね」


 設楽さんは絶対に酒を飲まない、と心に決めているそうだ。



 ろうそくは残り――九十五。

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