ナミコゾウ


波小僧なみこぞう

 波の音で天気を知らせてくれる妖怪。困っていた波小僧を助けたことで天気を伝えてくれるようになった、という伝承が残っている。その姿は人間の子供、もしくはわらで作られた人形とされている。



「僕の子供時代の話なんですけど……」


 中山さんが話してくれたのは、小学生の頃によく遊んだ友達についてだった。

 海岸沿いに住んでいた友達は周囲から浮いている子で、いつもひとりぼっちで過ごしている。近所の人と関わる様子もなく、まるでいない人のような扱い。引っ越してきたばかりの中山さんには、その理由がわからなかった。

 余所よそ者で友達の輪に入れず暇だったこともあり、気付けばその子と遊ぶようになっていた。


「シンパシーって言うんですかね。孤独な子供同士で自然とくっついたんです」


 友達は不思議な子で、度々少し先の未来を言い当てていた。

 といっても、その内容は些細ささいなこと。明日は誰々がケガをするとか、この問題はテストに出るとか。日常の小さな出来事ばかりだ。

 それでも、幼かった中山さんの目には格好良く映った。憧れもあった。

 どうして未来がわかるのだろうか。中山さんは気になって夜も眠れず、遂に友達に聞いてみた。

 するとその子は「波が教えてくれる」と答えた。海と向き合っていると、自然と少し先の様子が頭に浮かんでくるらしい。

 意味がわからず頭を捻ってばかりの中山さんだったが、友達はそれ以上語らないまま。かといって友情は変わらず、その後もよく遊んでいた。

 しかし、夏の終わり頃。


「突然、もう会えなくなるって、別れを切り出してきたんです」


 もしかして遠くへ引っ越すのかと思ったが、友達は首を横に振る。ならどうして、と何度も詰め寄るが、やはり答えず。

 そして次の日、友達は姿を消した。家族全員、まとめていなくなっていた。

 それなのに友達一家のことを心配する人はおらず、気にかけていたのは中山さんくらい。誰も感心を持っていなかった。

 友達一家が海に飛び込んだことを知ったのは、中山さんが大人になってからだ。父親の事業が失敗したらしく、無理心中を図って車に乗ったままがけから落ちたという。


「多分、自分が殺されるって、わかっていたんだと思います」


 どうして逃げなかったのか。

 なぜ助けを求めなかったのか。

 友達を救えなかったのが今でも心残りだ、と中山さんは言う。



 ろうそくは残り――九十六。

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