偽装

「ま、待って星川、それより話をっ…」


パタン…


行ってしまった。

衝撃な事実を僕に叩きつけたまま。


勝がやったって…?

意味が…わからない、僕の家に来て彼女とそういう事をしたっていうのか?何故?

そもそもあの2人は僕が知るところでは面識がないはずだ。あったとしても近所で偶然会う程度だと思う。

それにどうして星川を求めるように名前を呼んでいたんだ?


…考えれば考えるほど疑問が出てくる。

結局、星川を待つしかないか。


…しばらくして星川がカモミールティーとクッキーを持って来てくれた。


「久しぶりだね~?こうやって一緒にお茶するの」


「…う、ん」


ちょっと棘のあるような言い方にその原因である僕は罪悪感で気まずくなる。


「あの…星川。さっきの話、教えて」


「ああ、谷川くんがあの人を抱いてたって話?」


「…っ。そう、詳しく聞きたい」


「いいよ。じゃあ詳しく話すからまず、お茶飲もう?冷めちゃうから」


そう言われたが衝撃な話を聞かされて吐き気さえしており、今は何も喉を通す気分じゃなかった。

せっかく持って来てくれたのに断るのも星川に失礼だ。

僕はカップに口をつけ、ゴクリと音を鳴らし飲むフリをした。


それを確認すると星川は満足そうな笑みを見せる。


「ふぅ…。それじゃあ何処から話せばいいかな…」


星川はカモミールティーを飲み少し考える仕草をし、語り出した。


「…まず、あの後月くん眠っちゃったでしょ?」


「うん…。星川としばらく話してたのは覚えてるんだけど…ごめん、夜中起きるまでの記憶あまりないんだ」


「ふふっ…そっか。月くんが寝ちゃった後、奈津さんすぐに帰ったみたいで部屋に尋ねてきたの。それでね、僕に体の関係を迫ってきた」


「眠ってる月くんの横で服を脱ごうとするからとりあえずあの人をリビングに連れて行ったんだ。でも僕は好きな人としかそういう事したくないし、肌も見られたくない。それに月くんと約束したからちゃんと断ったんだよ。」


「そしたらね、急に服を脱ぎ出して目隠しし出したんだ。これで肌は見えないし、翠くんが目隠しをすれば好きな人とセックスしてる気分になれるでしょ。それで…シてくれなかったら月の事酷い目に遭わすって脅されたんだ」


…っ。僕のせいで星川が嫌な思いをしまったと思うとすごく胸が痛んだ。

だめだ、ちゃんと最後まで聞かないと。

動揺を隠せない僕を観察するように目線を外さないまま星川は続けた。


「でもちょうどそこにね、谷川くんが訪ねてきたんだよ月くんに用があるって言って。いきなり上がり込んできて裸になったあの人を見て興奮しちゃったみたい。谷川くんも一言も喋らなかったから目隠ししてたし僕だと思ったんじゃないかな?まあ、大体こんなところだよ」


「…そんな、じゃあほんとに勝が?」


「まあ谷川くんも思春期だしね?女の人が裸で自分の方に足を広げて求めてくるの見ちゃったら…仕方ないんじゃない?」


「…」


…これから奈津さんにも勝にもどうやって顔を合わせていいかわからない。


・・・。


「ねぇ月くん、これから僕のうちに住まない?」


「えっ?」


「落ち度は完全に奈津さんにあるんだし、それを逆手に利用すれば大丈夫だよ。脅すかたちにはなっちゃうけど」


「え、…」


「月くんだって気まずいまま一緒に暮らしていたくはないでしょ?とりあえず月くんの気持ちが落ち着くまで…これからの事はゆっくり考えて行こう?」


「いや、でも星川の家に迷惑が…」


「全然迷惑じゃないよ?おじいちゃんだって孫がもう1人できたみたいで嬉しいって言ってたし」


「でも…」


「…。僕、本当は奈津さんに体を迫られてトラウマになんだ」


「…っ」


「あれから、1人で眠るのが怖い。だから側に月くんが居てくれたらと安心して眠れると思ったんだけど…やっぱり、急だし迷惑だよね」


そう言って星川は俯いた。


「…っ。そんな事ない!」


トラウマだなんて…気付かなかった。

よく考えればそうなっても当然だ。

そんな時に辛い時に勝手な勘違いで星川を避け続けていた。

ごめん、星川。…僕は最低だ。


「じゃあ一緒に居てくれる…?」


「…うん、僕なんかがそばにいる事で星川が安心出来るなら」

そう告げると目をキラキラさせて喜んでくれる。


「ほんと?嬉しい!ありがとう」


「わぁお…ほんとに上手くいっちゃった」

そしてコソッと星川が呟いた気がした。


「…ねぇ?月くんそろそろ眠くならない?」


「うん、今日は大丈夫みたい」


「そっか…あれおかしいな」


「え?」


「いいや、なんでもないよ」


そういって星川は僕のカップに目を向ける。


「ああ、月くん全然飲んでないじゃない。どうして?…なにか入ってるとでも思った?」


「え?いや…ちょっと胃の調子が悪くて」


「そっか…じゃあ今日はこっちのはだめだね」


そういうと、星川は引き出しから薬みたいなものを取り出した。

「月くんこれ、飲んで?」


「それなに?」


「胃薬だよ」


なんで部屋に胃薬なんか置いてるんだろう。

そう思ったが、礼を伝えて飲んだ。


…そこら辺からの記憶はない。

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