誤解

「そこ座って。」


部屋に入るとすぐに座るよう促された。

星川が終始無言で顔に出来た引っ掻き傷を何故かすごく睨みつけながら手当てしてくれる。


気まずい…


全然喋らないし普段なら必ず飲み物を用意してくれていたが今日はそれがない。



何か怒っているのか?まあそれも無理もないだろう。僕の家にあの人に会わせないように星川をずっと避け続けて来たんだから。

星川に好きな人とかそういう話は一度も聞いた事はない。

なのにせっかく結ばれた人と引き離されて怒るに決まってる。



しばらくして星川が口を開く。


「ソレ、誰にされたの?」


「え…」


…言いたくない。奈津さんにされた事を言ったら会わせないようにしてたことを認めてしまうようなものだ。

…自分でも何でそんな事したのか分からないのだ。

父さんの為だとかそんな理由ではない。

彼女と父さんが別れてくれれば僕には好都合だし、別れた後で星川を無理矢理にでも目を覚させればいい。

でもそれ以前に星川とあの人が一緒に居る事自体が嫌なのだ。

ただ、ひとつ確かなのは星川に知られれば僕の事を嫌いになってしまうという事。

だから無言を貫いた。


僕からは答えが聞けないと理解したのか

「…今日はそんな傷なかったし、帰ってから出来た傷って事は、奈津さん?」


…当たっている。

そもそも黙っているだけで勘と洞察力がすごい星川の目を誤魔化せるはずがなかった。

ずっと俯いていた僕は恐る恐る顔をあげると星川から冷たい視線が送られていた。

あぁ…もう無理なんだ。

星川に嫌われてしまった。


そう思うと無性な哀しくなり僕の頬を涙が伝う。


「…っ、」


星川の口からグッと言葉を飲む音としばらくしてボソッと言葉が零れた。


「…あの、クソ女。」


「…え?」


…聞き違いだろうか。


星川は怒りの満ちた表情でブツブツ言っている。


「…ごめん。まさか月くんに手を出すなんて…これは完全に僕が間違ってたよ」

そういうとそっと頬を撫でられる。


嫌われてない…?それに間違ってたって…。

僕が殴られたのを知った上であの人よりも僕と友達で居続けることを優先してくれるのか?

これからも星川と友達で居られる…そう思うと嬉しくて思わずそっと抱きついた。


「っ!ああ…月くん」


初めてこんな事をする僕に星川は少し驚いた様子だったが抱きしめ返してくれた。


「ねえ、月くん?最近、僕の事避けてたよね。それについては月くんの口から教えてもらえるのかな?」

何故か少し期待を含めた声で星川は僕に尋ねてくる。


「…距離を…置かなきゃと思ったから」


「どうして?ぼく、月くんに嫌われるような事何かしちゃったかな?」


「…して、ない」


そもそも星川に好きな人が僕から離れていくなんて怖がってるこちらの方が可笑しいのかもしれない。


「じゃあ、なんで?」


「…」


「お願い、ちゃんと言って。僕もう焦らされるのは限界」


星川から答えを急かされる。

全てを言ってしまったら星川の負担になってしまうだろう。だから最低限の事だけ言うことにした。


「嫌だったから…。

星川は前からあの人の事が好きだったから僕に近づいたんだって聞いて、星川が一緒になってしまったら僕とはもう友達辞めちゃうのかなって考えたら嫌だった。

あの人じゃないなら…他の人とだったらちゃんと応援する。

だから、星川とだけはこれからもずっと友達で…いたい」


僕がそう言った瞬間星川の顔から期待が消えた。


「…そっか。友達、か。

…そんなの誰から聞いたの?あの女?それとも谷川?」


「…どうして、勝が出てくるの?」


「…ふぅん?まあ、それは誤解だよ月くん。んーそういう方向性に仕向けたのは僕なんだけどさ。」


「え…?」


「あの時、僕は指一本彼女触れてない」


「え…でもしてるところ…見たし、確かに顔は見えなかったけど星川の名前…呼んでた」


「僕はその側に居ただけ。

実際にヤったのは…谷川くんだよ。」


「…は?」



どういう…事だ…?


「はぁ…他の人とだったら応援、か。

今回はすごい我慢したから期待してたのに結構ショック…。」


「月くん、ちょっと飲み物淹れてくるから…ゆっくり待っててね?」


そう言って星川はにっこり笑って部屋を出た。







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