向かう途中で

星川の家に向かおうと家を出てドアを閉める。


「おい、月!」

名前を呼ばれたので振り返るとそこには走ってきたのか息を切らす勝が居た。

「ちょっと着いてこい!」

「…僕、今から用事あるんだけど」

そういう僕の手を掴みながら近くの土手下のトンネルまで強引に連れて行く。


「…っ痛いんだけど、なんなの?」

「お前…最近調子に乗ってるよな?

俺のこと眼中に無いみたいな態度取りやがって」

「…はあ?勝が僕と同類だと思われたくないから関わらない方がいいって言ったんでしょ」

そういうと勝は顔を真っ赤にして怒鳴った

「…っ!うるさい!!星川くんと友達になれたからって調子に乗んな!!」

勝は捲し立てるように続ける。


「一番最初に声かけたのがお前だから同情して離れられないでいるだけなんだよ!

…もういい加減解放してやれよ、お前みたいな陰気くさいやつに捕まってたら星川くんが可哀想だろ?」

「…勝には僕が誰と仲良くなろうと関係ない事だろ。」

そういうと何か逆鱗に触れたようで勝の顔がさらに赤くなる。

「…っんだと?!」


僕のか細い手首を掴むと怒りをぶつけるように強く上に縛り上げた。


「…っ。」

アザになるんじゃないかと思うほど強く。

「…お前は今までどおり1人で居ろよ。誰とも関わるな」

そう言うと僕がかけていた眼鏡を片方の手で外すと長い前髪と眼鏡で隠れていた僕の顔を数秒見つめた後、勝が顔を近づいてくる。


…?何やってんだこいつ。

僕は置かれた状況と今から勝が何をしようとしているかなんて分からなかった。

勝の顔が僕の顔に重なろうとしたその時。


「…なにしてるの?」

聴き慣れた鈴を転がすような綺麗な声が聞こえてきた。


「っ!ほ、星川くん…。」

星川がゆっくりこちらに近づいてくる。

勝に鋭い視線を向けながら

「ねえ、今何しようとしてたの?」

完璧な笑顔を僕達に向ける。

だが、その目は笑っていない。

この星川は勝から僕を庇ってくれたときの…あの時の星川だ。

いや、もしかするとそれ以上に怖いかもしれない。

僕と勝は金縛りにあったように動けなかった。


「いま 月くんに 何しようとしてたの?」

なかなか答えない勝に苛立ったのか強い口調で聞き直す。


「い、いや…それは」

「もういいや、やっぱり聞きたくない」

お前の声など聞きたくないと勝の声を遮り、


「それよりも早く消えて?」

女性が男性に可愛くおねだりするように言った。


そしてボソッと勝にしか聞こえないよう耳元で


「また月くんに何かしようとしたら殺すから」

無垢な子どもの様に後ろで手を組み、

ニコッと美しくも黒い笑顔を勝に向けた。

「…ひっ!」

声にならないおぞましい恐怖心を植え付けられた勝は腰を抜かしながらも走って逃げて行った。


「月くん!大丈夫だった…?」

先程の黒い星川は何処へ行ったのかいつもの優しい星川へと戻る。

何も状況が分かってない僕は


…なにがしたかったんだあいつ。

勝はたまに意味のわからない事を発言したり、やろうとする。

今回もそれと同じだと思った。

だから僕を心配する言葉に反応できずただ、

困惑と呆れた表情で勝背中を見送るだけしか出来なかった。


「…あぁ、もう。バカだな月くんは。

この後 どうしてやろうかな」

隠しきれてない星川の嫉妬心にまみれた黒い表情に気づけずに。

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