星川の家

「星川、もう家に帰ったと思ってた」

勝が去ったの後、帰ったはずの星川がいる事に疑問を覚えた。


「やっぱり月くんと一緒に帰りたくて戻ってきちゃった」

先程の黒い星川は何処へ行ったのかいつもの天使のような笑顔に戻っている。


「さ、月くん家に帰ろう?」

いつもよりも妙にくっついて来る星川を不思議に思いながらも、僕たちは星川の家に向かった。


星川の家に着くといつものように彼のおじいさんがもてなしてくれる。

そういえば、両親は海外で仕事をしているらしくおじいさんと2人暮らしだと言っていた。

2人暮らしにしてはやけに広い家だと思いながら、おじいさんが暮らしている部屋とはほぼ別館とも言える星川の部屋に移動する。

星川の部屋から上に続くはしごがあり、そこを登ると大きな窓がある屋根裏部屋へと行けるのだ。


・・・窓を開けると心地良い波の音が聞こえる。


「星川、さっきはありがとうな」


「ううん、いいんだよ。でもこれから谷川くんにはあまり関わらない方がいいと思うな」

「んー、そうなんだけどさ。実は勝って僕の…」


「従兄弟なんでしょ??」


…ん?星川に勝が従兄弟だって言ったかな?

まあ半年も一緒に友達やってれば自分が知らぬ間に口をすべってもおかしく無い。

特に僕は睡眠前と後の記憶が乏しいくらい寝坊助らしいから。


「でも谷川くんまた今回みたいに月くんの事襲おうとするかもしれないよ?」

「襲うって…。確かに勝は昔からちょっかい出してくるけど、従兄弟だしさすがに酷い事まではして来ないと思うし大丈夫だよ」

「その従兄弟がついさっきまで君に酷い事しようとしてたじゃない」


星川はキッと僕を睨む。


「まあ確かに頭突きは酷いよな」

「…はあ。月くんって賢そうなのに天然だよね」

星川が僕の事を何とも言えない呆れた顔で見てくる。

「え?」

普段星川は僕の事を肯定してくれるのだか時々こんな風に訳のわからない事を言う。


「こんなんじゃ僕の心が休まる日なんて一生来なさそう」


星川は僕が座るすぐそばに来て顔を近づける

「じゃあ、教えてあげようか」

「あの人が月くんに何しようとしてたか」


星川が勝と同じように僕の手首の掴んでくる。


「え、や、やめろよ?」


「ふふっ。痛い事はしないよ。どちらかと言うと…気持ちいい事?」


星川の綺麗な顔が僕の鼻の先で止まる。


「ねえ、こんな事されるのは谷川くんと僕。どっちの方が嬉しい?」

…?

嬉しいも何もない。

男に手首を掴まれて顔を頭突きされるなんて普通にいやだ。

何の拷問だよ。


でも勝のと違って星川は僕に頭突きするようなやつじゃないと分かっているから手首を掴まれても何故だか嫌じゃなかったが、

「どっちも嬉しくなんかないよ」

星川も冗談で質問しているのだと勘違いしてしまった。

・・・・・。


しばらく沈黙が続いた。


「…星川?」

どうしたんだ。

まさか傷つけた?

そう思っておそるおそる星川の方に手を置くと


「…ふふっ。ははっ…あははははっ!!」

星川が狂ったように笑った。

「…僕と谷川がどっちも一緒だって?

あいつと違って僕は君の為に自分の欲を殺しているのに?あんな本能丸出しで君を傷つけることで繋ぎ止めておく事しかできない奴と…一緒…?ははっ。」


発作のような笑い声が止むと

星川は真顔でこっちを向いた。


「もういい…。やめた」

「君に少しでも好きになってもらえるよう頑張ったつもりだったけど無駄だった。これから僕のしたいようにするよ」

僕は何が怒っているのが理解できず声も出ず体が動かなかった。


「そういえば、谷川が君にしようとしてた事教えるって話だったね?

…ふふっ。いいよ、教えてあげる。」

星川は近くの棚にある小さな袋を取り出すと薬のような物を自らの口に入れた。


そして…何処かで見た黒い笑顔を僕に向けながら言った。

「遅かれ早かれ…君は僕のものにするつもりだったし」


「いいよね?月くん。」

そう言って、彼は僕に口付けた。
















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