月の事情

「月くん!今日も僕の家来るでしょ?」

「うん、別にいいよ」


星川と友達になったあの日から半年が過ぎ、

星川は僕の事を『月くん』。

僕は星川の事は苗字で呼ぶようなった。

下の名前で良いよと何度か言われた事もあったがどこか照れ臭くてその場はいつも誤魔化し苗字のままで呼んでいる。


星川と勝の件があってからクラスメイトたちはどこで怒るか分からないキャラの掴みどころのない星川に少し怖がっている様子だったが、さすがと言うくらいすぐに人気者になった。

たまにあの時の星川は別人だったのではないかと本当に思ってしまうくらいだ。


ちなみに僕は相変わらず友達は星川だけだが、不思議と変に睨まれたりすることはなかった。

無視させることもなければ物を隠される事もない。

中学の頃に比べればすごく、快適だった。


…勝は相変わらずだが、星川の前で僕に話しかけることは無くなった。

といっても星川はほぼ常に僕の隣に居るので学校では勝と会話する事もなくなってしまったんだけどね。


星川がどうして僕と友達になりたかったのかいまだに分からない。

学校の人気者と陰キャ。

対照的な僕達だが、意外にも僕らには似ているところがある。 

それは星を眺めるのが好きだと言う点だ。

夜空に星が輝いているのを見ると辛い事があっても何も考えなくて済む。


天文学に詳しいのかと言われたらそんな事はないがただなにも考えずぼーっと眺めるのが好き。そんな感じだ。

勝からは何故かオタクだと散々バカにされてきた。

だからまさか高校で同じ趣味の友達が出来るとは思っていなかった。


しかも、星川は僕よりも星に詳しく天体望遠鏡まであるのだ。

星川の家は海が見える丘の上にあり、星と海どちらも綺麗に見える。

そのうえ、屋根裏部屋には星を見るためだけに作ったという大きな窓があり、星を見るには最高の場所だった。

初めて家に呼ばれた時は緊張したがそれも最初だけで今では家よりも星川の家に帰りたいぐらいだった。

僕は星を見始めると時間を忘れてしまうため、星川の提案で、家に行く時は泊めさせてもらう事になったのだ。


「どうせ僕の家に行くんだから月くん家まで寄り道して行こうかな」

「…いや、」

僕は少し焦る。

星川はこうやってたまに僕の家に来たがるのだ。

出来れば星川には家に来てほしくない。

…僕の家は少し面倒だから。

だから「すぐに行くから星川は家で待ってて」

下手くそであろう僕なりの笑顔を星川に向ける。


「…。うん分かった!待ってるね」

楽しみにしてる!と手を振る彼を見送って僕は家へと足を進めた。


「…ただいま」

「おかえり月。お父さんに電話してくれた?」

帰ってきて早々、女性が僕に尋ねる。

「忘れてました」 

「もう‼︎早くしてって言ってるじゃない⁈アンタの教育費バカになら無いんだから。」

「…分かりました」


彼女は僕の父さんの恋人。 

僕を産んだ母親は父さんとは離婚している。

離婚したのは2.3歳の頃らしいので

写真で顔を見たことはあるが実際に顔は覚えていない。 

父さんの方に引き取られたが、働きながらの子育ては難しいらしく父方の祖父母の家でお世話になっていた。

難しい家庭だと言われることもあったが、普通に幸せだった。

祖父母が亡くなって父に引き取られる中学1年生までは。

僕の新しい母親だと紹介されたその人はとても意地の悪そうな人だった。

父の前では優しいけど僕と2人きりだと性格が変わる。

…まあ金目当ての女なんてそんなもんだ。

父は海外出張などで仕事で忙しく、あまり家にいない代わりに彼女が僕の面倒を見てくれている…らしい。 

実際彼女は家の事は僕に押し付けてばっかりでろくに料理も掃除もしない。

…ほぼ僕が家事をしているのでどちらかと言えばこちらが面倒を見てる方だと思う。

教育費の話も父によると毎月十分な額を振り込んでくれているらしいが、彼女によると足りないらしい。

 

おそらく、あのブランド物の大半は僕の教育費で買った物なのだろう。

ブランド物で埋め尽くされたクローゼットを横目で見ながら彼女の夕ご飯の支度と掃除をする。

支度が終わると星川の家に行く準備をする。


「どこか行くの?」

「友達の家に泊まってきます」

「は?明日学校休みでしょ?休みの日くらい家の事くらいしなさいよ」

「…明日帰ってきたらしますね」

「ふん、ほんと子どもは気楽で良いわよね。バイトくらいして稼ぎをこっちに回すぐらいしなさいよ」

そうソファーで横になりケータイをいじりながら彼女は言う。


・・・どっちがだよ、バーカ。

心の中で悪態を突くと黙って家を出た。

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