はじめての友達

・・・どうして僕なんだ?

呆けていると勝が横から割り込むように口を挟んだ。


「星川くん…だっけ?優しいんだな。三原がひとりぼっちで可哀想だから声かけてあげたんだろ?」

いつもみたいに勝が猫を被る。

でも何処か焦った様子だった。

まあそうだろう。

クラス…いや、おそらく学校一の美形から声をかけられるのが自分じゃなく先ほどまでぼっちだと馬鹿にしていた僕に話しかけられたのだから。


「可哀想?僕はただ、三原くんと仲良くなりたいと思っただけだよ。」

笑顔で星川 翠がそう答える。

勝は少し考え込んだ後、何か企んだのか歪んだ笑顔で続けた。


「でもあまりお勧めしないな。

三原ってめちゃくちゃ惚れっぽくて友達の彼女寝取っちゃって中学でもずっと避けられてたんだ。

星川くんに彼女出来た時に俺心配になるよ。

それに1人のほうが好きらしいから、気にしないでオレと友達にならない?」


前半の部分を周りに聞こえるように大きな声で喋り出した。

・・・嫌われてたのは勝がそういう風に仕向けたからだろ。

嘘の噂まで流して。

それに僕…初恋もまだだし、童貞だし…。

性格がひねくれてるのは否定できないけど。


確かに僕よりかは勝と一緒にいた方が星川 翠にとってはいいのかもしれない。

ああ見えても勝は僕にだけ意地悪なだけで他の人の前ではいい奴を演じてるから人望があったのだ。

だから彼の意味の分からない嘘もみんな信じていた。


「ふふっ…余計なご心配ありがとう。でも僕は三原くん友達になりたいんだ」

笑顔だが、心なしか声は強みを含んで聞こえた。


「いや、だからそいつは性格悪…」

「ちょっと黙っててくれない?」


シン…と教室が静まり返った。

先ほどまで終始笑顔で対応していた彼が勝の話など興味ないと遮るように言ったのだ。

僕の位置からは顔が見えなかったが

勝は星川の顔を見ると少し怯えたように僕達から離れて行った。


何が起こったのか分からなかった。


「ねぇ三原くん、だめ…かな?」

星川 翠が少し遠慮がちな声でもう一度僕に聞いてくる。

・・・ほんとにどうして僕なんだ?

勝に便乗するわけじゃないけど、もっと自分に釣り合う奴らなんてそこらへんにいるじゃないか。

こんな隅でメガネかけて本読んでるような陰気なやつと友達になりたいなんてやつ今までいなかったぞ…

もしかして、自分のルックスを自覚していないのか? 


そんなことを考えていると

返事がない事に不安を覚えたのだろう。

星川 翠は徐々に泣きそうな顔になっていく。


・・・んー、やばい。

やばいぞこの状況は。

何でかって…周りの目が痛すぎる。

僕に断らせないために狙ってやってるわけじゃ無いだろうな…?

いやいや、まさかな…。

だが、ここで僕みたいな陰キャがもちろん!なんて言ったら彼を友達に引き入れようとしていたクラスメイトから身の程を考えろとバッシングを受けるに決まってる。

かと言ってこんな哀しそうな顔してるのに断ったりしたら可哀想だし、それこそ中学の時よりも酷いいじめに遭いそうだ。

どちらにせよ、勝のせいで目立たず静かに学園生活を送りたいという僕の希望は儚く散ったのだ。


「三原くん・・・?」


あぁ…なんだかめちゃくちゃ可哀想になってきた。


「…いいよ、友達。」


「……っ!」


僕はこれからしばらくはクラスメイトの視線が痛いだろうと確信しながらも受け入れる事にした。

実際一番最初に友達になろうと言ってくれたのは純粋に嬉しかったのだ。

星川 翠は少し驚いた表情をした気がしたが、その後すぐにパァッと花が咲くように笑う。


「ほんと?!すごく嬉しいな…ありがとう!」

「いや、こちらこそ…」

彼なら僕なんかよりもっと良い友達をすぐ見つけられるだろう。

その時はそんな事を思っていた。

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