はっぴーはろうぃん



「あー、ちょっとびびったわ。負けるかと思ったじゃん」


 ちゃっかり物陰に隠れていた火の玉もとい浅里が、ふよふよと再び現れた。

「ま、結果オーライだな。乙! 叶十くん!」

「……」

 叶十はやれやれとため息をついた。けれど、まあ、これも慣れっこになりつつある。すると後ろから、少女のか細い声がした。

「私を……ころしてください」

「ころす?」

「私は、だって、こんなに人を」

 何と答えたものか分からず、立ち尽くしていると、例によって火の玉がしゃしゃり出た。

「えー、でも、全部あいつのせいなんだろ? 君には罪はないと思うけど?」

「そうだけど、やったのは、私だし……」

「そんなに心配なら、地獄の人に聞いてきてやるよ」

 なっ! と勢いよく声をかけられ、叶十は戸惑う。

「えっ」自分も?

「だって、どうせ行く当てもないじゃん、俺ら。ちょっと地獄の閻魔様だか聖人だかに、観光がてら直談判しに行くのも悪かねえだろ?」


 また調子のいいことを。


 そんな風に思ったが、結局叶十は頷いた。なんだかんだ言って、彼の言うことはいつも的を得ていた。数打てば当たるというやつかもしれないが。

「じゃ、そういうわけだからさ。お嬢ちゃんも一緒にどうだい?」

「え、いいんですか?」

「いいよいいよ。てか大歓迎。むさい男と可愛い人魂ちゃんでは、パーティのバランスに欠けるからよ」

 人魂って、つねったりできないのかな。ジト目で睨みながら、叶十はそんな怨念をちょっとだけ飛ばした。






 そんなこんなで、一向は渋谷を後にする。






 向かうは地獄。いや、煉獄? どこでもいい。結局はどこへも行けない、彷徨える魂たちなのだから。また来年、この世にやってくるかもしれない。今度は豪勢に天ぷらを乗せた、月見そばを食べに。

 

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駄犬も歩けば人を殺す 名取 @sweepblack3

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