【最終準備】

 家へ帰ってダイナマイトが入った段ボールを慎重に家の中に運び、リビングに置いて中を見た。

 いよいよこれで俺の人生も終わる。こういうクライマックス的な時は大体ドラマとかではセンチメンタルな気持ちになり色々回想しがちなので、とりあえず俺も一応してみる。

 まずは生まれてからの生い立ち。小学校、中学校、通信教育時代、司法試験時代・・・特に何も感じなく、なんの後悔もなかった。

 じゃ次は、その後の仲間との思い出はと言うと、卓三も剣もたかこもこれで良かった。あとはりんが上手く芸能界に復帰できれば万々歳だ。唯一の心残りがりんとセックスができず・・・笑

回想してからものの数分で、自分の人生何も後悔が無いことが確認できた。

 俺はベストやジャケット、パンツにダイナマイトを設置しようと思い、慎重に一本ずつダイナマイトを衝撃吸収シートの上に並べ始めた。そして、最後の五本となったところで段ボールの底に何かがあることに気づく。どこかで見たことあるような三角形の紙包みだ。まさかと思って確認するとそのまさかで、トカレフという拳銃だった。

 俺がビックリしてすぐに神島に電話をすると、若干うっとおしそうな声で電話に出た。

「何の用だ?」

「っていうか、段ボールの底に拳銃が入ってましたけど・・・」

 それを聞いても、うっとおしそうな声に変わりはない。

「それは伏見さんからのサービスらしい。それも足が付かないからどうとでも使いな。じゃあな」

 電話が切れた。俺はすぐに電話を掛けなおす。今度は若干切れ気味で電話に出た。

「なんだよ!まだ何か用か?」

「いや、ありがとうって伏見さんに伝えてくれ。それとあんたにも本当に感謝している。ありがとうございました」

 神島は何も言わず、若干の間を置いて電話を切った。

俺的におそらく奴はあまり本気の礼を言われたことが無く、照れくさかったのだろう。

 俺は、若干の興奮を覚えながら拳銃のグリップからマガジンを取り出し、中の弾の数を確認する。装弾数いっぱいの八発装弾。健康な男子なら誰でも本物の銃を手にしてみたいと思うだろうと、考えているのは俺だけだろうか。

そして、拳銃を再び紙袋に包み、残りのダイナマイトを取り出してベストとジャケットを持ってきて、ダイナマイトを取り付け始めた。

 二時間くらいして全て完了。ダイナマイトスーツの完成だ。

ベストに二十本、ジャケットに十本、パンツに六本、合計三十六本のダイナマイトが付いている。これだけでも結構な重さだ。

ダイナマイトスーツと残ったダイナマイト十四本をリビングに敷いた衝撃吸収シートに慎重に置き、夕食を買ってきて、それを眺めながら食べた。

当日はこれを着て国会議事堂。

っていうか、余った十四本のダイナマイトとトカレフは何に使おうか考えた。余ったダイナマイトもそうだが、せっかくサービスでもらったトカレフは何かに使わないともったいない。

しかも、ここはやはり人助けのために使いたい。

何かないかなと考えていると、真っ先にまだ芸能界復帰をいう課題が残っているりんのことが思い浮かんだ。

何か、りんのためにこれを使えないかと考えるが、使う物がダイナマイトと拳銃のため、なかなか思いつかず明後日りんに会う時に探ってみようと思った。

その瞬間、明後日はここでは会えないことに気づく。なぜならリビングには一畳分くらいの衝撃吸収シートの上にダイナマイトがびっしり付いたベストにジャケット、軍パンが置いてあり、その脇には十四本のダイナマイトと拳銃があるからだ。

これをりんには見せるわけにはいかないし、できればこれはここまま当日まで置いて、動かしたくない。

 そう思った俺は、すぐにスマホを出し電話をしようと思ったが、りんが電話に出れるタイミングではないかもと思ったので、明後日会う時はどこか外で会おうという趣旨のメールを送った。

 するとほんの何秒か後に、電話が鳴った。

「何遠慮してメールしてるの?電話でいいのに」

「あっそう?いや、ほら一応ね、礼儀というかそんな感じでさ・・・」

「そうなんだ・・・」

 俺は何だか、りんのその声が距離をおかれて寂しそうに聞こえたので、電話にすれば良かったと若干後悔した。

「あっ、そうだ。メールでも打ったけど明後日さ、会う時ここじゃなくて前に約束した高級焼肉を食べに行かないかなと思って・・・」

 りんはそれを聞いて始めものすごい嬉しそうに「え?!」と言ったが、その後申し訳なさそうに言った。

「あっ、そうそう。そうだ。ごめんね・・・明後日は私、実は予定が入っちゃってさ・・・」

「え?あぁそうなんだ・・・そうかそうか」

「実はあれから色々知り合いに当たろうとしたらさ、向こうからお誘いがあって事務所に確認したらオッケーがでてさ・・・」

 俺は始め何を言っているのかわからなかったが、事務所と聞いて理解する。

「おぉ!マジで?誘いって番組か何かの?」

「うん。とりあえず昼のバラエティ番組のモデルというか、そんな感じの仕事でさ。あっその後も雑誌のモデルとかいくつか話をもらって・・・」

 俺はそれを聞き、心底嬉しかった。

「そうかぁ!やったじゃん!そうかぁ!これでりんも楽しく生きていけるじゃん!」

 りんは若干の間の後に、テンション低めで言った。

「え?あっうん。まぁ・・・」

「え?何どうしたん?嬉しくないん?」

「いや、それ自体は嬉しいんだけど・・・連は?連はどうするん?」

 俺はそれを聞き、いつものごとく頭をものすごい回転させて答える。

「え?俺?俺はあれだよ。これでみんながこう、楽しく生きることに決まったからさ。俺も何か探そうかと思ってるよ」

「え?そうなの?そうかぁ!うんそれがいいよ!」

「だからさ、何も心配せず自分の思うとおりに頑張んなよ!りんなら必ずできるからさ!」

 りんの声が、いつものテンションに戻った。

「うん!連もさ、絶対に生きる道が見つかるから焦らず頑張るんだよ。私は一週間経てば、ちょっと時間ができると思うから、その時に会おうよ!」

 俺の心に若干の寂しさが湧いたが、それを無理に抑え冗談を交えた。

「そうだね。じゃあその時に童貞も捨てさせてよ!」

「全然いいよ。じゃあその時まで自慰は禁止!一回でもしたらその話は無しで!」

 りんも冗談に乗っかった。そして俺らは高いテンションのまま、くだらない話に花を咲かせて電話を切った。

 電話を切った後、ものすごい寂しさが俺を襲った。寂しくて涙が出そうになったが、すぐにシャチを殺した後に出て来た『これで何でも自分の自由に行動できる』との解放感を無理矢理に思い出した。

そして、一時間経つ頃には、りんへの感傷は完全に消え、再びダイナマイト十四本とトカレフを何に使ってやろうという考えで頭がいっぱいになった。

 候補としては昔からムカついている大震災が起きた時にのうのうと会食をしていた元首相の家にダイナマイトを放り込む。また、代々政治家のボンボンのくせに調子こいている副総理の家にダイナマイトを放り込む等々。

しかし、これらを実際に行うと警察やらが警戒して国会議事堂突入に支障を来すと思い、考えなおす。

 それよりも、当初は漠然と国会議事堂に突っ込むだけをイメージしていたが、拳銃とあまりのダイナマイトがあれば衆議院本会議場まで行けるのではないかと思った。

『そうだ。それがいい。会議場まで行って自爆すれば確実にその場にいる全員を殺せ、議事堂も爆破できる』

 そうしようと決めて、国会議事堂についてパソコンで色々調べ始めた。議事堂の構造や、どこに警備員がいるのかを徹底的に調べる。

そして、国会の日程などを調べて、決行日は五日後に当たる特別国会の日にしようと決めた。突入する場所は国会議事堂の正面ではなく衆議院南門。その方が衆議院本会議場に近いと思ったからだ。

地図サイトの写真を見ると、その写真が実際に国会が行われた月のもので、厳戒態勢となり警官の数やら警察車両の量なども一応は確認できた。南門には5人の警官と、通りには護送車や警察車両が数台。

そこで、簡単に計画を立ててみる。

 まず赤坂見附駅まで車で行き、駅近くのビルの駐車場に停めて着替える。長めのコートでダイナマイトやらをごまかして丸ノ内線に乗り一駅先の国会議事堂前駅の2番出口で外へ。ここが南門に一番近い。そして通りの向かいにある警察車両に向けてダイナマイト一発お見舞いし、警察の意識がそっちに向かった所で、ダッシュで南門へ行き、もし警官に見つかったら拳銃とダイナマイトで応酬。

そして、議事堂内に突入してドカンだ!

しかし、あくまでも画像でしか確認していないために、実行の前日に一度下見に行こうと決めた。

時計を見るとすでに深夜になっていた。腹が減っていることに気づき、とりあえず冷蔵庫の残り物を適当に食べて寝た。

 次の日は朝から走ってトレーニングを終えて家と車の大掃除をした。

なぜかと言うと皆の痕跡をこの家と車から消さなければいけないと思ったからだ。

俺が最後の実行に移った後、おそらく警察がここに来るだろう。もちろん高円寺にも。

そして、鑑識が入り色々調べてもちろん指紋も取ることになる。

そうなると、もしかしたら皆の所まで警察が行くかもしれない。それだけは絶対に避けたいので、とりあえず今日と明日は、ここと車と高円寺の大掃除に当てようと考えていた。

しかし、西東京市のほうは一軒家ということで車と合わせて二日かかってしまい、大掃除で合計三日間使ってしまった。

 そして、決行日の前日。

いつものトレーニングを済まし朝食を取って、ちょっとゆっくりした後に下見に行った。

赤坂見附まで車で行き、明日と同じ駐車場に停める。そして、すぐにタクシーを拾い国会議事堂へと向かった。観光を装って国会議事堂の周りを一周してもらう。国道四〇五号線を走り四一二号線に入って内閣府交差点を左折。その後二四六号線に入って総理官邸前交差点を右折し、まずは衆議院南門付近をチェックした。

厳戒態勢ではあったが、パソコンの地図サイトで見た時より警察車両も警官の数も少ない。おそらくあの地図サイトが撮影された時は、アメリカ大統領の初来日を控えていたのもあったからだろう。

国会正門前でちょっと停めてもらい議事堂の写真を何枚か取り、再び赤坂見附に戻って西東京へと帰った。

 初めて国会議事堂を生で見た感想は圧倒されはしたが、まぁ想像通りで明日必ずぶっ潰してやるとの思いが溢れ出た。

夜になり最後の晩餐ってことで毎度近くのスーパーで性の付くウナギやらを買って食べたが、もちろん酒は一滴も飲まない。

食事のあと明日の準備をしていると携帯が鳴った。りんからだった。

また女の勘を見せられ、しかも、また色々惑わされると思ったので電話には出なかった。

 準備を終え何度も明日のシミュレーションをして、風呂に入って床に入った。いよいよ明日すべてが終わる。若干の興奮を感じたが、基本的には集団自殺に向かう前日と同じように特に特別な感情が湧くことはなかった。

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