第44話 三度目の正直ならぬ三度目のまさか 1

 安静にしていなかったせいで続いていたと思っていた体調不良なんだけど、これの正体が、実は全くの別物だったんだ。


 娘とうろついていた某有名アニメ専門店で推しキャラグッズを漁っていた時だった。


 突然病院から着信が入った。

 瞬間、耳の後ろ辺りにサワリと嫌な予感が走る。


 もたもたしながらガラケーを開いてボタンを押すと、担当の医師の少し慌てた声が響いてきた。


 「すみません、今ちょっとでいいのでお話してもいいですか」


 冷静沈着なロボットような淡々とした先生なのに、なんか面白いな。

 意識してあえてのんきに考えながら、間延びした返事を返す。


 「出先なので。ちょっとなら、大丈夫です」


 今はメモも何も持っていない。

 なんていっても、私はいい加減な奴だし、それに酷く忘れっぽい。

 大切なことをたくさん伝えられてはきっと、忘れてしまうからね。


 そして予感通り、この電話には私にとってはちょっとばかり重要で厄介な情報が散りばめられていた。


 「実は、術後の病理検査の結果、胞状奇胎であったことが判明しまして。といっても胎児がいたわけですから、正しくは胎児共存奇胎という、十万人に1人がなるような極めてまれな症例なのですが」


 「おぉ・・・。なんだか凄いものなんですね」


 「いまのところ癌というわけではないのですが、癌と同じように体内の別の場所へ転移する可能性のある面倒なものなのです。結果癌になることもある。・・・それで、前回の処置だけでは足りないので、急いで手術をする必要がありまして」


 「なるほど」


 「ちなみに、出血はもう止まってますか」


 「いや。止まったと思ったら思い出したように時々ドッと」


 「・・・・・・」


 いやちょっと。

 沈黙は反則だよね。

 やめなさいって。


 「やはり、残ってしまっているみたいですね」


 なんだか物凄くトーンダウンした主治医の声が、最高に不吉な感じを、これまた絶妙な塩梅で醸し出してくる。


 すぐさまその場で手術の日取りを決め、ようやく電話を切った。


 「なんだったの?」


 娘がいぶかし気に聞いてくるので、素直に答える。


 「なんか、検査で癌の親戚みたいのが見つかったんだってさ。来週頭にまた手術することになっちゃった。せっかく今年の正月は久々にみんなと初詣に行けると思ったんだけどな。ざーんねんっ」


 「・・・・・・」


 「・・・ごめんな」


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