第43話 またもやまさか・・・ 2


 内診台に座ろうとしたけれど、出血やらなんやらがえぐ過ぎて、これじゃ周りをめちゃめちゃに汚しちゃう。


 どうしようかとためらっていると、看護師さんが優しく声をかけてくれた。


 「汚しても気にしないで大丈夫ですよ。痛みが辛かったら無理しないで自分のペースで用意してくださいね。お手伝いできることあれば何でも言ってください」


 言いながら肩をかしてくれた看護師さんの言葉にやんわりと緊張をほぐされ、支えてもらいながらどうにか内診台に座ると、診察が始まった瞬間に、医師の緊張した声が聴こえた。


 「これは・・・もうほとんど出てきちゃってるじゃないか」


 なんだかごにょごにょと看護師数人に指示をだしている。


 「急いでっ」


 パタパタと何かを取りに足早に去っていく看護師の足音をBGMに、「間に合わない」とか「あれを使うしかないか」なんて台詞が医師の口から次々と吐き出される。


 とにかく、麻酔やらなにやらと薬を使うはずの手術は必要がなくなったものだから、私自身がすぐに死ぬのうな心配はなくなったみたいだ。


 麻酔無しでガシガシ中を掻きだされる激痛を身体の奥深くに重く感じながら、「これで本当にお別れなのか」と、弔ってやることすらできない命に、情けなさで声すら出ない。


 何人もの医師の明日の予定が突然空くことになったものだから、看護師が慌ただしくキャンセルの連絡を各診療科へと入れているのが聴こえた。


 実のところ、このあたりから後のことをあまりよく覚えていない。

 

 処方された薬の副作用で眩暈がするし、後陣痛が酷くて唸りながらゴロッゴロ転がっていたからだ。


 朦朧としながら時折目を覚ましてはパソコンを開いて、そこに励ましの言葉やいいねの足跡を見つけ、細く気力を繋いでみる。


 フラフラしながら洗濯でもしてみようと動き出せば、小さなお目付け役たちに叱られ、すぐに布団に戻され、ギュッギュと毛布でくるまれた。


 これが本当に私の心底情けないところなんだけれど、それでもやっぱり思ってしまっていた。


 「どうして一人で逝かせちゃったんだ。ついていってやれなかったんだよ」って。


 4日間、そうやって甘やかされてぐちゃぐちゃになったまま過ごした私だったけど、やっぱり言うことを聞いていられなくて、5日目からは仕事の予定や学校の予定なんかをめいいっぱい詰め込んでいた。


 無理やり走り回ってはまた寝込み、復活してまた走り出すの繰り返し。

 本当に嫌になるんだけど、どうやれば立ち止まれるのかなんて、これっぽっちも知らない間抜けなんだから、どうしようもない。


 そんな感じで好き勝手に生きている私だけれど、絶好調の不運の宝くじをもういっちょ既に引いた後だったんだ。


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