第42話 またもやまさか・・・ 1

 予定されていた手術の前日。


 結局無茶苦茶に動きまくっていた私は出血を起こした。

 まさかの完全に流産をしてしまったんだ。


 ほぼ陣痛と同等の痛みを2分おきに感じながら連れの運転で病院についたんだけれど、こんな時でも私の運気の悪さときたら絶好調。


 総合受付の良く熟した受付嬢が「わーい」と万歳したくなるくらい大ハズレなんだからたまらない。


 来院前に電話を入れ、医師からすぐ来るようにとの指示で来院したのだけど。

 それを丁寧に説明しても「予約なしの診療は当院では一切受け付けておりません。こちらの用紙に全てご記入いただくまで、お話をうかがうこともできません」の一点張り。

 初診受付用の用紙やらなんやら、何枚も記入させられたんだ。


 これはさすがにしんどかった。

 数十秒おきに襲ってくる波のような痛みで立っているのが限界だったし、記入している途中で破水までしちゃったりなんかした。


 なるべく深く息を吐き出しながら、ようやく全ての用紙に記入してそれを提出した時だった。


 ちょうど席を外していたらしいもう一人の受付嬢が、私の用紙を覗き込んで絵に描いたような見事な二度見をした。


 「産婦人科?」と呆然とつぶやいたかと思うと、一瞬で顔色を変える。


 「ちょっと、さっき連絡受けてたでしょ!」と小さく叫ぶなり、ハズレ嬢の手元に張られていた鮮やかなピンクのフセンを剥がして彼女の目の前に突き出す。


 提出したばかりの用紙をハズレ嬢からひったくると、彼女は慌てて私に頭を下げてきた。


 「大変申し訳ございません!全て医師からうかがっております。こちらの受付はされなくて大丈夫ですので、そのまますぐ産婦人科までお願いします。大丈夫ですか、歩けますか?」


 どうやらこちらの受付嬢はとても頼りになる方のようだ。

 見た目は少しばかりおっかなそうだけど、目の奥が優しくてホッとする。


 「ありがとう。まだ歩けるから、大丈夫」


 痛みが来ている時はとても歩ける状態ではないけれど、陣痛と陣痛の合間にはまだ数十秒くらいは間隔がある。

 その隙に歩ければいい。

 せいぜい50mかそこらの距離なんだから。


 ようやく駐車場に車を停めてきた連れもちょうどその時到着した。


 「なんでまだこんなとこにいるの?」


 連れのピリリと辛味のきいた言葉に、ハズレ嬢は気まずそうに身体を背けると、並んでもいない次の患者を白々しく目で追い始めた。


 もう一人の受付嬢が「本当に申し訳ありませんでした。何かあったらすぐお声かけください」なんて言っているものだから、連れはすぐにピンときたらしく、物凄く何かを言いたげにこちらを見つめてくる。 


 「へへっ。大丈夫。ちょうど今痛みが引いてるとこなんだ。タイミングよかった。こうして一緒に歩けるしね。ラッキーなんだよ。だから怒らないでやって」


 表情を険しくした連れに支えられながら休み休み産婦人科までたどり着くと、座る間もなく名を呼ばれた。

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