第28話 みっちゃん 8

 この日はチャゲの空気の読めなさに救われたと思う。


 カズとみっちゃんの視線にチクチクと刺されながらも、私はチャゲのノリに乗じて最後に二人とはしゃぐことができたんだから。


 賢いカズは、すでに全てを察してたんだ。


 恐らく、初めから目星もついていたんだろう。

 翌日にはすぐに私の眉間に印をつけた犯人連中を探し出し、何があったのか彼女たちの口からすっかり聞き出していた。

 みっちゃんを連れ、直接問い詰めに行った時の彼らの怒りようは、かなりのものだったらしい。


 あとで分かったことだけれど、どうやら私に傷をつけたグループの女の子の中にはカズを好きな子も混ざっていた。


 みっちゃんとカズが下校した後の行動を尾行していた彼女たちは、当然二人が私と遊んでいるのを目撃していた。


 それでも、相手が私だったものだから、今まではすっかり安心しきって放置していたんだけれど、みっちゃんの「京が好き」発言が彼女たちの嫉妬心にまで飛び火してしまったというわけだ。


 カズとみっちゃんに直接叱られてしまった彼女たちは、その場で大泣きしながらそれまでの悪事の数々について、互いに罪を押し付け合いながら洗いざらい話してくれたようだ。


 そしてそれ以来、カズとみっちゃんは、私に一切近寄らなくなってしまった。


 時折目が合うと微笑んでうなずいてはくれるけど、学校も放課後も全くかかわろうとしない。


 みっちゃんとはそれ以来ずっとそんな関係になってしまったし、カズは授業で必要な言葉以外交わさないまま、4年生の最後に転校してしまった。


 カズはいなくなる最後の日まで、律儀にも私を気遣ってくれていた。


 「みんなが帰るまで待ってろよ。挨拶くらいしたいんだ」


 カズがそんな風に言ってくれたから、私はほっとして、大好きな校舎裏の池で鯉の頭をつつきながら、皆が帰るのを待った。


 しばらくしてやってきたカズは、あんなことが起こる前と全く変わらない、少しはにかんだような明るい笑顔でぎゅっと私の手をにぎってきた。


 「じゃあな。」


 カズは満面の笑みで手を振ると、そのまま勢いよく走り去ってしまった。


 私は走るのが得意じゃない。

 すぐに転んでしまうし、喘息で苦しくなって動けなくなっちゃう。

 しかもカズときたら、やたらと足が速いんだからもうお手上げだ。


 私はカズが走り去ってくのをただ見ていることしかできなかったんだけど、ちょっとくらいは文句を言いたかったよね。

 だって、本当に一言の挨拶だけだったんだから。


 だけど、まぁ。

 あまりにも寂し過ぎて、私はその場で声を上げて大泣きしてしまったんだから、結果的にはみんなが帰った後で良かったと思う。


 「家につくまでには目の腫れが引いているといいな。」なんて無理やり気持ちを逸らしながら、その時の私はカズの形にぽっかり空いてしまった胸の穴を塞ぐのに必至だった。

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