第27話 みっちゃん 7

 幸か不幸か、私が全くよけなかったものだから、小指ほどの太さはあるその枝は私の目を傷つけること無く、眉間にしっかり突き刺さった。


 そこから流れ落ちた血が、ポタポタと地味にアスファルトを濡らし始めたことで、頭に血が上り切っていた彼女たちも少しは我に返ることができたらしい。


 運転手が車から降りてきて「馬鹿野郎!車に傷がついたらどうするんだ!」なんて怒鳴り始めたころにはすっかり逃げるという行為を思い出したみたいで、一目散に走り去っていった。


 蜘蛛の子を散らすとはよく言ったものだと思うけれど、蜘蛛の子はあんなに素早く姿を消すことまではできないから、彼女たちの方がずいぶんと上手うわてだよね。


 ちなみに、この運転手も私とストーカー君を散々罵った後、さっさとこの場を去ってしまった。

 幼かった当時はいまいち理解できていなかったけど、立派なひき逃げだね。


 2人きりになったところで、私は、隙あらばしょっちゅうケツを撫でまわしてきたり、背後から抱き着いて匂いをスーハーかいできたり、入浴中に窓の隙間から風呂場をのぞき込んだりしてくるストーカー君に、心からの感謝を伝えた。


 「頼んでないのに余計なことを!」なんてドラマやアニメみたいな台詞なんて出てくるわけがない。


 だって、ストーカー君がとっさに私を突き飛ばしてくれなければ、間違いなく私はひかれていたし、そうなっていたら彼のように上手く避けられていたかもわからなかったんだ。


 「ありがとう。もしケガとか・・・何かあったらすぐ教えて。」


 「大丈夫。お母さんが心配するから、このことは誰にも言わないで。」


 ストーカー君はそう言うと、笑顔で帰っていった。


 家に帰った私は、さっさと顔を洗い流し傷を消毒した。

 血はだいたいとまっていたけど、眉間の傷は結構深いものだったから、鮮やかな紅の印がこれ以上ないほどくっきりと残っている。


 どうしたものかと悩んでいると、ほどなくいつもの連中が集まってきた。


 夏休みの間にかなり頻繁に家に遊びにくるようになって、すっかりレギュラー入りしたカズも、もちろん来ている。


 カズとみっちゃん以外ならなんとでも誤魔化せるものを、こんな時は本当に間が悪い。

 彼らは自転車を置くなり、さっそく私のおかしな傷に目をとめた。


 「ああ、これ?ちょっとケンカしただけだよ」


 「またかよ。何すればそんなとこにケガすんだよ。馬鹿だろお前。ほんと凶暴だよな。俺らいないとすぐケンカだ」


 空気が読めないことに長けている坊主頭のチャゲが、いい感じで話をろくでもない方向に流してくれる。


 ゆうちゃんとタンタンが心配そうに私の傷を見つめる中で、みっちゃんとカズの反応は違っていた。


 「京・・・・・・。」


 みっちゃんが泣きそうな顔で私の傷を見つめ、その隣でカズが鋭く私を睨みつけている。


 「本当に、なんでもないんだって。」


 私がそう言うと、カズとみっちゃんは黙り込んでしまった。

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