第11話 新たなる祖母の奥義 4

 とりあえずここは泣いてしまおう・・・・・・。


 着がえとタオルを胸に抱え、こっそり風呂場へ移動した私は、冷たいシャワーを浴びながら思う存分涙を流した。


 母に打たれていた場所に水があたるたび、びりびりと染みたように酷く痛む。


 涙が止まらないのは痛みのせいだ・・・・・・。

 そう思い込もうとしたけど、心のどこかで「違うに決まってる」「それだけじゃないでしょ」と、ブツブツ余計なことをつぶやいてくる自分がいる。


 痛みに耐えながら、最後に熱めのシャワーを短く浴び、身体を一気にあっためて脱衣場へ出ると、持ってきたタオルでガシガシ乱暴に身体と髪をふき上げた。


 今夜はさっさと寝てしまった方がいい。


 さすがに、これ以上の痛みは・・・今はもうごめんだった。


 だがここで期待を裏切らないのが我が人生!

 私の人生の運営さんときたら、めちゃめちゃ働き者とみえる。

 もっと怠けてくれればいいのに、いつだって間髪入れずに次のイベントを発生させてくれるんだよね。


 注文したハンバーガーに肉が挟まっていなかったこと3回。

 アボカドを買えば、5つ連続で中身がアウト。

 マーガリン入りロールパンにマーガリンが入ってなかったこと2回。

 洗車でシャンプー液切れててやり直しはもはや数しれず。

 携帯変えればデータ移行に失敗しデータがオジャンになること3回。

 新品の電化製品は、半分近くが不良品で即お取替え。


 ちなみに、まさに今使ってるこの、最近買い替えたばかりのPCだって、買って2日目にはテンキーの7が反応しなくなったし、1週間もたつと数分おきにカーソルが勝手に飛んで、ひと段落丸々勝手にデリートする特殊機能付きPCに大変身した。

 『お取替え』になって設定しなおしになるのは面倒だから、そのまま使ってるけどね。


 そんなこんなを聞いた私の心優しい友人たちが、皆口をそろえておススメしてくるのは・・・・・・。


 「神社行って、祓ってもらってこい!」


 え!これって、なんかの呪いなの!?

 呪われちゃってるってこと!?

 あらやだ、怖いっ!

 え・・・?誰に!?

 と、汗をかきながら思う事は多々あるけども・・・・・・。


 こんな風に地味に運気が悪いことで、逆にそれを補って余りあるくらいに、こうして心のしなやかな大切な人たちと、出くわすことができているのかもしれない・・・・・・なんて、そんな風にも思えてきちゃうわけで。


 彼らの優しさにあやかってこれ以上ないくらい穏やかに生きている私としては、不良品くらいいくらでもぶつけてくれて構わないのにと、あさましい本音がちらつく・・・・・・。


 結果。

 友人たちの助言は嬉しさとともに、胸の奥に大事に丁寧にしまいこんで、お祓いはしないことにしたのでした。


 さて、またまた脱線してしまったのだけれど。

 そんな小さなイベントをいまだに飽きもせずかまし続けてくれている、私の愛すべき人生の運営さんが、こんなにも盛り上がりをみせている瞬間を見逃してくれるはずはなかったんだよね。


 この時、新たなイベントを発生させたのは、鬼バ・・・正真正銘、血のつながった愛すべき私の祖母だった・・・・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る