第18話 簡単! ストレージ収納法

 翌日。

 忙しい忙しいと口にする友人達を横目に、なんら変わらない平和な一日を過ごす。

 友人達は迫る週末のイベントとやらにお熱なようで最終調整に大忙しだ。

 こちらも昨日の出来事を話したくてうずうずしていたのだが、好きなゲームのことであまりもめたくない。

 今週は少し我慢するべきかとオレは勉学に勤しむ事にした。


 その日やるべきことを全て終え、ログイン。


 街をぶらつきながら今後の方針を考える。

 昨日の作戦も思いつきにしては良かったが、なにぶんと詰めの甘い部分も多かった。


 その上でレベル上昇による高揚感で引き際を間違えた。それが死因の一つ。

 倒したら、さっさと帰れば良かったのに、欲を出しすぎた。


 そしてストレージだ。

 あれが突然素材を弾いたもんだからそれ以上のアイテムが持てなくなったのが一番痛い。

 慌てて武器を取りに行った先で跳ねられて、意識を途絶えさせた。

 武器は拾って装備したから良かったものの、なぜ回収できなくなったかの原因も探る必要があるか……



 今後空から襲撃するにしても、ある程度の準備は必要か。ハリアーさんみたいにいっそ空でも飛ぶか? いや、止めよう。それこそ喧嘩を売っていると思われても仕方ない。

 オレは別に敵を作りたいわけでもないんだよなぁ。


 問題はこのストレージだよ。

 ルドルフさんに売ってしまうのが手っ取り早くていいのだが、別に今は金がいらないしな。

 ただでさえここ最近死んでばかりだ。

 なにかないものか……そんなことを考えていると、強欲な生産職の少女の顔が浮かんだ。


 早速ログイン状況を確認し、連絡を取ってみる。彼女も暇ではないらしいので、敢えてアポイントメントを取ってからの誘いだ。

 ちょうど素材を切らして手持ち無沙汰だという。

 素材を集める約束をしていたことだし、そのついでに相談してみるか。



「お待たせー」


 少しして彼女がくる。

 いつもよりおめかししているような気がするのは気のせいか?


「今日はストレージいっぱい開けてきちゃったもんねー。頼りにしてるよ、マサムネさん」

「ああ、ウサギでもカエルでもなんでもござれだ」

「たよりになるぅ~。んじゃ、早速行こっか?」

「その前にちょっと相談に乗ってくれないか?」

「相談……?」


 リネアは少し俯いて考える仕草をしてから、いいよ。と笑顔で了承してくれた。


 場所を変え、ドリンクを飲める場所へと誘う。

 リネアはキョロキョロ周囲を見渡してから溜め息を吐く。

 なんだか周囲の視線が気になるのだとか。

 あんなに金にがめつく、駄々をこねていたあのリネアがだ。成長したなぁ。


「ねぇ、今失礼なこと考えてなかった?」

「何も?」

「ならいいんだけど……それでストレージのことなんだけどさ」

「ああ」

「ちょっとどんなものがあるか把握しておきたいから出してくれる?」

「それだけでわかるのか?」

「方向性ぐらいはね。まあボロ皮ばかりってわけでもないんでしょうし、なんだったら直接買い取ろうかなって思う。どう?」

「量を減らしてくれるなら願ったり叶ったりだ。こちらから頼みたいぐらいだよ」

「契約成立ね。んじゃ、早速出して見て」

「ああ」


 最初の方に取り出したレア素材を見て、目を輝かせていたリネアだったが、最終的にはやや青い顔をしていた。


「ねぇマサムネさん」

「なんだ?」

「あたしには羊の素材もあるように思うのだけど。攻略済みなのはエリア2までなのよね?」


 若干……いやかなり引きつった笑みを顔に貼り付けてオレの方を向く。


「昨日な。ちょっと思いついた技を試しに行ったんだ。で、勝った」

「ちょっ、なんで言ってくれないのよ!」

「真夜中だったし、寝てるかもしれない時間帯だったからな」

「何時ころか聞いてもいい?」

「明朝3時」

「うん、流石に寝てたわー」

「だろ? まあそのあとゲージ管理が甘くて死んだんだ。その時の死因がストレージがアイテムを弾いたことでな。それでこうして相談を持ちかけているという訳だ」

「ああ、そういうあれかー。まぁこれだけ素材を詰め込めばそうもなるよ」

「そうなのか?」

「うん」


 当たり前のようにリネアは頷く。

 マジか。そんなこと誰も教えてくれなかったぞ?


「それで、買い取れそうなものはあるか?」

「欲しいのはいっぱいあるけど、手持ちが少ないからなー」

「少しくらいならタダであげてもいいぞ?」

「あー……そういうのは貰わないことにしてるの」

「そうなのか?」


 ルドルフさんなら喜んでもらってくれるが……彼女には彼女なりの美徳があるのかもしれない。


「うん。自分で仕留めた素材ならともかくさ、流石に人の手に入れたものまで欲しがっちゃ終わりだよ」


 終わりだそうですよ、ルドルフさん。

 まあこっちとしては必要としてくれる人に渡った方が何かと回ると思ってるんだが……


「んじゃ、宝珠三種類を2つづつ欲しいかな?」

「いいぞ」

「相場から計算して、合計で100万で大丈夫?」


 ん?


「待て。6個でそんなするのか?」


 ルドルフさんなら碧宝珠2万、橙宝珠5万、黒宝珠13万。同じ量を売っても40万だ。

 買取でもここまで差がつくとか聞いてない。そういえば相場とかルドルフさんから聞いたことないな。いや、オレからも特に聞いたことないけど……


「本当はもっとするんだけどね。友達だから負けてくれないかなーって、ちょっとおねだりしてみたり。どう?」


 リネアの方が全然マシなのだろうか?

 ちょっと人間不振になりそうだ。

 まぁでも……彼の出資無くして今のオレはないからな。

 儲けるためじゃなく、恩返しする気持ちで付き合っていけばいいか。


「それくらいなら全然いいぞ。知り合いにはもっと格安で卸してるくらいだし……」

「え、これより低く買取している人が居るの? 流石に引くわぁ……」


 リネアをしてドン引きされてますけど、ルドルフさん?


 リネアから聞いた話だが、黒宝珠って単価で130万くらいするらしい。

 橙で50万。碧宝珠でも30万くらいしたが、ここ最近急に出回ったとかで10万まで落ちたとか。

 明らかに身に覚えのありすぎる話に、オレはそっとリネアから目をそらした。

 リネアからの視線がジトッとしたものに変わった気がするが、気のせいだと思いたい。


 まぁその相場通りなら合計380万のところを100万に抑えたんだ。文句は言わせないぞと無言で圧をかけたら黙った。人間素直が一番だぞ。


 んで、話はストレージに戻る。


「ぶっちゃけさ、処理したいのはお肉とボロ皮なんだよね?」

「ああ」


 全くもってその通りである。


「方法があるといえばあるけど、聞く?」


 オレは黙って頷いた。










「そんな方法があったとは!」


 それはまさに目から鱗だった。


「割と普通のテクニックよ。特にマサムネさんみたいに黙っててもボロ皮が入ってくるプレイヤーにとって、これほど効率が上がるものはないかもね」


 リネアが教えてくれたテクニック……それは、ストレージの枠いっぱいにあらかじめアイテムを埋めておくというものだった。

 装備枠は装備枠としてストレージ画面からロックしておけば良いのだとかで、あとは枠以上に素材が入らなくなるそうだ。


「問題は何を入れるかだが……」

「それは今からの素材集めで勝手に埋まるよ」

「それもそうだな!」


 リネアはニコニコしながら言った。

 オレもそうだなと答える。


 オレのストレージから始めてボロ皮の文字が消えるまで、優に3時間ほど狩って狩って狩りまくった。

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