第16話 二つの顔を持つ刀
「受け取りに来た」
「待っておったぞ」
ガデスに出迎えられて、開口一番手渡された刀を見て、オレは眉を潜めた。
「おい、頼んでおいたのと違うぞ。小太刀じゃなくて太刀の方だ」
ガデスはそんなオレへわかっておるわと言わんばかりに一瞥し、少し間を置いてから二つのガラス玉を手渡してきた。
ガラス玉の中央には漢字一文字で『柳』『重』と書かれている。まったくもって意味がわからない。これをどうしろというんだ?
「これは?」
「刀と鞘の中央の部分にそれぞれ窪みがあるじゃろう? そこへ差し込むとそれぞれの効果が発揮される」
「?」
「まずはお望みの太刀じゃったな。抜刀した状態で刀の中央に『柳』を装着してみぃ」
言われた通りにやってみる。
すると……
「なんだこれは!」
ガラス玉をはめ込んだ途端、刀身が柳のごとくわさわさと伸び始め、あたかも初めからその形であったかの様に佇む。
「刀の重さは小太刀のまま、刀身だけが伸びるか……面妖な」
「ガッハッハ。驚いた様じゃの?」
「未だに夢でも見ている様だ。このまま納刀はできるのか?」
「出来ん」
「では納刀するときはどうするんだ?」
「玉を外せば良い」
「なるほど」
少し押し込むと、ポコンと玉が外れる。
すると元の形にするすると戻っていった。
「面白いな」
「じゃろう?」
「だがMPの減りが心配だ」
『柳』の刀身を伸ばした分、MPがみるみる減った時は驚いた。今では着流しの効果で微回復しているが、陰との併用は控えないとな。どちらも決め手だからこそ、MPゲージの消費は痛い。
「もう一つは?」
「見ての通りじゃ」
「ふむ……うぐっ」
同じように刀へカチンと玉をはめ込んだ途端、今まで余裕を持って振り回せていた刀が途端に重くて持てないものになった。
遂にはガチャンと床に落としてしまう。
気のせいか刀身が半分床にめり込んで見える。
「これは、また……扱いの難しい効果だな」
玉を取り外しながら一息つく。
案の定というか、STがごっそり減っていた。使い所の難しい武器だ……でも、その利用法は瞬時にいくつか思いついた。
これがあれば、きっと羊にだって対抗できる。そう思わせるポテンシャルがあった。
「代金は如何程かな?」
「そうじゃのう、前金をいただいとるから100万で良いわ」
「前金? 身に覚えが無いのだが?」
「この間置いていった宝珠があるじゃろう?」
「ああ、そういえばあったな」
「属性玉の材料はあれが元じゃからな。二つしかなかったもんじゃから二つしか作れんかったが、あとは刀そのものより魔道具の取り付け代金がだいぶ嵩んだんでの。大負けに負けて100万でいいぞ」
「わかった」
オレは用意しておいた金をトレードで武器の所有権と交換した。
「確かに。儲けさせてもらうたわい。またなんか面白いアイディア思い付いたら連絡する。それと宝珠なら幾らでも買い取るからな」
「悪いがそれの販売先は優先権がある。余り次第でいいか?」
「あるだけで構わんわい」
「ではまた。用があったら連絡する」
「気長に待っとるわい」
オレはガデスに礼だけ言って工房を後にした。
それと同時、ルドルフさんから連絡が入る。
内容を聞けば例の人がログインした様だ。
酒場で英気を養ってから紹介すると言われた。
あの人は飲みだすと口数が特に増えるからな。せっかくの機会だ。二人の邪魔をするのは悪い。先にこの刀の試し切りでもしてこようと草原エリア1へと足を向けた。
「……これはすごいな」
ただ感嘆とした言葉が漏れる。
まずは『柳』。これのおかげで『飛燕一閃』の拡散範囲が劇的に広がった。
そして扱いが難しいとされた『重』だったが、空中から落下するのに【払】う必要もなく、この『重』さだけで必殺の一撃になった。
つけるのは鞘の柄の方だ。
まるで稲光が落ちる様な速さで地面に到達する打突。オレはこれを『雷牙』と名付けた。
「ウサギだけでは物足りないな。これはきっとカエルにだって通用するだろう」
気付けばオレの表情は笑みを作っていた。
カエル特攻の『地擦り斬撃』なんかは、刀に『重』を加えただけで、着地と同時にカエルの胴体を串刺しにするほどの陰の刃が飛び出してきた時にはびっくりした。
『柳』も『重』も、既になくてはならないオレの必殺技の一つに組み込まれている。
それともう一つ……念願の二刀流を持って、オレの剣技はより磨かれた。
だから、まあなんだ……その。
「それで夢中になって俺からの連絡を無視したという訳か?」
「……すまん」
ルドルフさんは、お前さんのことだからそんなことだろうとは思ったさと深いため息をついていた。
若干酒臭いのは飲んだ帰りだからか?
隣には同じくベロンベロンに酔っ払った鳥の獣人がいる。ルドルフさんと仲良く肩を組んで一緒にふらふらしているが。
「ハリアー、こいつがマサムネ。お前の技術に関心を持ってる今話題のルーキーだよ」
「おー、お前が。噂はあちこちから聞いてるぜ? なんでもカエルをソロで討伐したんだって?」
「ええ、まあ」
「物理無効のあいつら相手によくもまあ、勝てるもんだ。あいつらは俺たちバード協会だけが倒せるいいカモだったのにさ」
「バード協会?」
「俺たち鳥獣人にのみ入る事が許された冒険者向け協会だよ。俺もそこの一員だ」
「へー」
そんな場所があるんだな。
通りで組合で見かけないと思った。
しかし、それ以前に……
「鳥の獣人は武器が装備できなかったはずだが?」
「ああ、できないな」
「どうやって倒すんだ?」
「マサムネにはわからんか?」
「いくつか考えつくが……まさか?」
「なんとなくわかってるだろうけど、種族によってはINTの高い種族もいる。ハリアーなんかはそっちだな」
「INT……魔法か!」
「ご明察。俺らは荷物を持って飛行することを好まない。ま、俺は飛ぶ前提の種族じゃ無いから地に足つけて励んでるけどよ、今でも心は空に憧れてるのさ」
ルドルフさんは遠くの空を見つめながら目を細めた。―単純に夜目が効かないだけかもしれないが。
「と、いうわけで。俺たちは空から奇襲をかけることによってイニシアチブを取ってるわけだ。確かにあいつらは理不尽だ。だがな、やりようによっては討伐は出来る。俺たちの場合は空を、お前さんの場合はどこから攻める?」
「オレは地中からと考えてました。でもその結果は……」
「だろうな。あいつらは嫉妬深い。それと敵視がその場に留まり続ける限り諦めない。だから安全地帯は上空にある」
ハリアーさんがニヒルな顔でそう述べる。
そのやり方こそが正しいのだと、言わんばかりに。
オレは何も言えず、ただ拳をぐっと握るだけだった。
会話自体はあまり続かなかった。
ハリアーさんがその場で寝こけてしまったので、ルドルフさんは彼を介抱しなくてはならないと申し訳なさそうに夜の街へ消えていった。
オレは……オレのやり方で攻略を進める。
覚悟を決めた足取りに、少しも迷いはなかった。
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