第4話 ワードスキルのからくり

 だいたいコツが掴めてきた。

 このワードスキル、意外と奥が深い事が判明した。


 前提としてこれらのスキルは単語である。

 だから組み合わせが大事だのと事前に言われていたが、そんなことはない。

 単体でも十分使える性能だ。

 この真意に気付いた時、オレは大層興奮していた。そして確かめたくて色々実験した。


 その成果をこれから上げていく。


 例えば【払】。

 これは対象にノックバックを与える。

 字面だけ見れば敵を弾き飛ばすだけのスキルだ。

 だが本当にそれだけか? 

 そう思ったオレは、自らの腕に付与して抜刀を試みた。


 結果、オレの思惑は予想を遥かに凌駕した。

 それがこの間ウサギの首を跳ね飛ばした神速の抜刀術『一閃』。

 まさに雷光が走ったように寸断せしめる抜刀術。武器苦手のマイナス判定を受けてなお、この威力! 

 被害者の白うさぎも何をされたかわからないように呆けた顔を晒していたのは笑ったよ。


 勿論、その仲間達も。


 あんなに日中堂々と首を刎ねられる体験をしたことなんてなかったのだろうな。

 すぐにオレに敵意をむき出しにして襲いかかってきた。


 でもオレはその場にとどまらず、すぐさま逃避したから事なきを得たわけである。

 あの後気付いたのだが、四足歩行はSTの消費がとても軽い。

 今までの全力ダッシュがまるで無駄だったかのような結果。

 そこに【払】を付与すれば、如何に草原の王者であるホーンラビットであろうとうまく撒く事ができた。それだけの効果を得られた。


 それからは己の武器を増やし続けた。

『一閃』も強力な技だが、真正面から打ち合うことが出来ないデメリットを抱えていた。その問題とは……連射が出来ないことにある。

 抜刀術は一度抜き放って仕舞えば、納刀するまでに大きな隙が出来る。

 だからあの場は逃げの一手。混戦にはあまり向かない技だった。


 だから考える。結果を想像する。


 例えば不意打ち。『一閃』を放つ上でなくてはならない要素。

 これはバックアタック時に発生する事象。

 これを発動できるのは、大まかに敵視を受けてない状態に限る。

 一度でも武器を装備すれば敵視を受けるこの環境。だから正面から堂々と『不意打ち』しても成功する確率は極めて低い。なんせ見えているからな。敵視を受け放題だ。


 だが索敵範囲外なら? 

 勿論不意打ちもバックアタックも成功。

 だがこちらには索敵範囲外から攻撃する手段がないことに気づいた。


 だが、これもいわば発想の転換だ。

 届かないのなら届くようにすれば良いだけ。このゲームはそれが出来る。

 用意されたシステムの範囲外。

 足りない分は想像力で補える。


 そしてオレは一つの事象を引き寄せた。

 それが──


「飛ぶ斬撃だ!」


 ストレージから取り出した[石の刀]を、鞘ごと上空に蹴り上げる。勿論【払】の効果付き。勢いよくカッ飛んでいく[石の刀]は、やがて重力に引かれ、【加速】を加えてオレの元へ戻ってくる。


 そこへオレも跳躍。

 [石の刀]を掴み、【自重】を加えた落下速度で【抜刀】。振り抜く腕に【払】で加速させ、抜き放たれる刀身に【斬】、【刀】を追加で載せる。その結果、生まれたのは風の刃。


 幾度か実験した結果、縦に振り下ろすよりも、横薙ぎに払った方が大きく対象グループを。それ程までに大きな刃は、ウサギ達の団欒をこれでもかと破壊し尽くした。


 これぞオレのもう一つの技。

 中距離決戦抜刀術、名を『飛燕一閃』。

 一閃の発展系でありながらも、飛翔したツバメのように敵めがけて一直線。

 全てを巻き込み、寸断せしめる必ず殺す技。そしてその成果がステータスに現れる。



 【ただの】マサムネ

 【称号】なし

 【種族】ワーウルフLV2→4

 【STR】3→9

 【AGI】3→9

 【DEX】3→9

 【特色】凶暴化、武器苦手、格闘得意

 【性格】獰猛、獣人上位

 【取得スキル3/3》

 【初級/刀】刀装備時、会心上昇

 【初級/斬】斬撃ダメージ増加

 【初級/払】対象をノックバック

 <スキルポイント:30>

 【装備】なし

 <ストレージ内>

 【武器】石の刀×1

 【素材】ぼろぼろの皮×12



 ただの一撃であれだけ苦労したレベルが2も上がる。

 そしてこれが、このゲームの本来の遊び方ならば……確かに過疎ゲーになるのも頷ける。

 あまりにも理不尽。

 だってそうだろう? ここに至るまで誰一人とてアドバイスをくれる者はいなかった。

 ただの一人もだ。


 今までは親切なプレイヤーが初心者にアドバイスするのが当たり前、暗黙のルールになっていた部分もある。

 もちろん下心はあるだろうが、それでもまだその親切を受けた方は嬉しいものだ。


 だがこのゲームには、そういう善意を振りまく人が一人としていなかった。

 みんな自分が生き抜くのに必死なのだろう。

 だからいついなくなるかわからない新人には構っていられない。


 まるで自分の身で味わって来いとばかりに送り出され、そして絶望の淵に立たされた。


 プレイヤーが一番の雑魚。

 まさにその通り。

 では初めからこの事実を周知させていたら? 

 結果は何も変わらないだろう。

 だからその脅威度でもってプレイヤーの身に染み込ませた。

 この力は自身の想像力が鍵なのだ。

 そして想像力には個人差がある。

 窮地に立たされてようやく開花する力。


 あとは為すがまま。

 この力を手に入れてようやくスタートするゲームバランス。

 受け入れられる筈がない。

 こんな不平等なゲーム。万人受けするわけがないんだ。

 それでも、居残ってでもこのゲームで遊んでいるプレイヤーが居る。


 それはつまり……

 力を得たプレイヤーという事。

 だからオレは胸の奥から湧き上がる興奮を抑えきれない。


 未だ見ぬ脅威。そしてそれに打ち勝つプレイヤーがいる事に興味を示さずには居られないから。だから笑う。

 ゲームを始める前のワクワク感を持って、再びスタートラインを切る。




「さぁ、ゲームを楽しもうか」


 オレは口角が吊り上がってしまうのを抑えきれないまま、新たなターゲットを見つめる。


 次はどの手で屠ってやろうか。

 あの手この手の想像力が湧き上がっては消えていく。

 もう想像するのが止められない。止めるのがもったいない。一度あの高揚感を味わってしまえば後戻りしたくない気持ちもわかるというものだ。


 ──Imaginationβrave。

 このゲームでオレは、オレだけのサムライになってやる!

 システムに縛られたサムライごっこじゃなく、オレの望んだ形のサムライに!


 そしてオレなんかよりさらに高みにいるあの二人が、病み付きになるのもわかる気がした。なにせここでは思った通りの力が手に入るんだから……




 




 あれからどれほどの時が過ぎたか。

 今のオレに草原で土をつけられる相手は居ない。

 度重なるレベルアップの高揚感を味わいながら、無音でホワイトラビットの首を跳ね飛ばす。


 堂々と、目の前で。

 あの時はまだ対応手段がなかった。

 だが今はもうその力を備えている。

 種族特性の徒手空拳。

 これに【斬】を加え、手を水平に構える。

 俗に言う手刀の構えだ。

 もちろん、これも刀なので【刀】の適用内。効果は刀を使った時と同じ。切断が可能になる。

 とはいえ偽物であるため、劣化品もいいところ。


 それでも無手でこれほどの威力は捨て置くには惜しい。だからこれは通常攻撃としての手段とした。

 刀だと威力が高すぎるので、餌を仕入れるのはこちらで事足りる。細切れにしてしまっては、ENの回復率に大きく影響してしまうからな。かぶりつくにはミンチよりステーキが腹に溜まる。考えるまでもない。



「さぁ試合おうぞ。楽しい楽しい命をかけた闘争だ!」


 両手を広げ、姿勢を落とす。白と黒の敵視を【払】い退け、真正面から迎え撃つ。

 最近わかったことだが、この敵視、払いのけることが可能だ。

 ゲーム内の常識にとらわれていたあの頃なら想像もつかなかったが、やったらできた。

 そして敵視を受けてない状態は、たとえ目の前であろうと【不意打ち】の効果がつく。

 理屈はわからないが『一閃』が発動したのが証拠。そして……


 目視により、ホーンラビットがオレへと狙いを澄まし、突撃の姿勢を見せた。

 身を屈め、飛び出す足に力を込める。

 突進攻撃は数秒の溜め時間が発生する。

 不意をついていなければどうということもない攻撃だが、あの頃の敵視を馬鹿正直に受けていたオレにはどうすることもできなかった。

 だからこそ、その攻撃は必殺足り得た。

 でも今は……



「──遅い。見えていれば何の脅威にもならんぞ?」


 身を屈め、空気を【払】い蹴り、空を走る。

 あっという間に縮めた距離。

 視線が交差し、ホーンラビットの表情から焦りが見えた。必殺足り得るチャージまであとほんの少し。明らかに格上のオレに対し、威力を高めようと必死な顔つき。

 オレは構わず手刀を抜き放つ。

 これも、ある意味では『一閃』。刀でない分威力は数段劣るが、ウサギ程度にはこれで十分。


 ──キンッ


 響く金属音。鉄よりも硬いとされたホーンラビットの角が、手刀と拮抗し競り負ける。

 目の前を自慢の角が落ちていく瞬間を捉え、呆然とするホーンラビット。

 その隙だらけの心臓を手刀があっさりと貫く。

 スキルによる付与を受けて、貫通効果を得た手刀だ。


 命の音が手のひらからこぼれ落ちる。

 ああ……なんて儚い。

 ホーンラビットがやられてしまえば、白と黒はもはや無力。定められた未来を否定するように目に力を込めるのみ。

 だから効かないって、その程度の魔眼は。

 再び片手で【払】い退け、ニタリと笑う。


「さぁ、食事の時間だ」


 今度はオレがウサギの命を奪う番だった。

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