第12話 みいことおとや(3)

 ダイアモンド学園の見事な紅葉を見下ろす位置に、みいこの部屋はある。


 今日も命綱も無しに壁をのぼってきたおとやは、台本を手に涙目でみいこを見上げた。


「な~、演技ってどうやってすんだ~?」


 演劇部きっての実力者女優は、平気な顔でうそぶく。


「どうもこうもないわよ。心を込めて、台本を読むの。そうすれば自然とできるようになるわ」


 おとやは不満そうに唸り声をあげた。

 文化祭のクラス発表で王子を演じることになったのだ。運動も勉強もそつなくこなすおとやだが、芸術分野は得意ではない。


 読みかけの本に目を戻すみいこ。

 しかし、うなり続けるおとやにため息をつくと、ぱたんと本を閉じた。


「別に、そんなに気張る必要ないと思うわよ」


 おとやは不服そうに反応する。


「でも、クラスの奴らがみんな期待してくれてるんだぜ? いい演技したいじゃん」



 みいこには、彼のクラスメートの考えや気持ちがよくわかった。

 姫と呼ばれる自分を恋人にもち、気さくで友達も多く、更には文武両道。おとやはまさに王子といったキャラクターだ。


(どんな話かは知らないけど……)


 王子がいるということは、おそらく姫や王女といった役もいるのだろう。

 彼女たちのために自分の恋人が頭を抱えているとは、いささか不満である。


「はぁ」


 みいこは大きなため息をついた。

 八つ当たりする気分で言い捨てる。


「いつもプリンセスと一緒にいるんだから、いつもどおりでいいでしょう」


 不満げなみいこに、おとやはぽかんと口をあけてフリーズした。

 数秒考えたのち、すっと立ち上がる。




「みいこは特別。他のやつをおんなじように扱うわけねーだろ」




 歩きながらそう言って、みいこをぎゅっと抱きしめた。

 恥ずかしそうに頬を染めるみいこ。


「……そう」


 照れかくしのように言うと、おとやはにやっと笑った。



「つーか、そもそもこれ、王位継承権をかけた派閥争いの舞台だから。恋人役なんていねーけどな」

「はぁ!?」



 みいこは真っ赤な顔をばっとあげた。



「嫉妬したのか~? いやー、オレ愛されてんな~」

「もうっ、うるさい!」


 楽しそうなおとやに、みいこは怒鳴り返すのだった。


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