第11話 ちなつとけいし(5)

 図書室は、やんちゃ仲間とのたまり場だった。

 他に人気のない図鑑コーナー。グループのリーダー格はオレで、まるで王様のような気分だった。


 毎日図書室の一画を占領する。そんなある日、オレは一人の少女を見つけた。


 紺のベストに、紫のリボン。二個下……中学一年生らしい。地味な丸めがねと三つ編み。当然ながら化粧っ気もなく、仲間内の女子たちより圧倒的に華がない。



 しかし不思議なことに、オレは彼女を目で追うようになっていた。



 図書委員らしい彼女は、毎日図書室にやって来た。

 オレたちを咎める強さのようなものはなかった。だが彼女には凛とした雰囲気があり、少し気の弱い仲間は自然と声量を落とした。



「ちなつ、か……」


 中等部の仲間から仕入れた情報を呟く。

 この頃には、オレははっきりと感じていた。


 図書室の王様は、彼女だと。






「ねぇ、オレと付き合ってくれない?」


 伝えたのは初めて見かけてから二か月後だった。

 オレに告られて、断る女子なんていない。

 彼女ももちろん赤面したが、次に発した言葉は想定外だった。



「あなたみたいな軽い人とは付き合えません」



 我ながら馬鹿だと思う。

 その一言で、オレは彼女に惚れこんだ。




「軽い人」なのがダメらしい。オレは、悪い仲間と縁を切った。ネクタイを着け、ピアスも外した。髪を染めるのもやめた。

 ちゃんと授業に出席するようになると、学校が少しだけ楽しくなった。



 次のテストで赤点がなければ、彼女にもう一度告白しよう。



 そう決意して、オレは数年ぶりに勉強に励んだ。

 もちろんその間も、彼女とのコミュニケーションは怠らない。オレの変化に、彼女も言葉を交わしてくれるようになっていた。




 そして、テスト後。

 ギリギリで補修を回避したオレは、ちなつのもとへ向かった。


 まっすぐにその目を見て、伝える。




「オレと、付き合ってください」




 長い沈黙のあと、頬を赤らめた彼女が答える。



「…………はい」



 思わずその場でとびついたら、悲鳴をあげて突き飛ばされた。




 人生で初めて、オレは本気の恋をした。




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