第13話 まどかとさとる(5)

「あの……教科書、見せてもらえますか……?」


 わたしは勇気を出して、隣の席の男の子に声をかけた。

 入学したばっかりなのにもう友達がたくさんいて、みんなから「さとる」って呼ばれてる……ちょっとかっこいい男の子。


 その子のまわりにはいつも男の子がいっぱいいて、乱暴な言葉が聞こえることもあって、なんだかちょっと怖いし、できるだけ関わらないようにしようって思ってたのに……。



 授業一日目にして、教科書を忘れる大失敗!!



 入学に合わせて転校してきたからまだ友達もいないし、さとるくんに見せてもらうしかない……、んだけど!やっぱり怖いよ~!


 それでもわたしは、おそるおそる彼に声をかけた。

 背の高い彼はわたしを見下ろすようにこちらを見る。反射的にびくっとしてしまうわたしだが、彼は薄くほほえみながら首をかしげた。長めの前髪が、さらりと目にかかる。


 あ、聞こえなかったのかな……。


「あの、わたし、きょ、教科書を忘れちゃって。見せてもらってもいい、かな」


 もう一度、消え入りそうな声でお願いする。

 あぁ、恥ずかしい……。申し訳ない……。


「あぁ」

「えー!?もう教科書忘れたのかよ!?」


 さとるくんの返事を遮るように、大きな声が響いた。

 顔をあげると、同じクラスの男子がわたしを指さして笑っていた。

 かぁっと顔が熱くなるのを感じる。わたしは彼から目をそらして、早口でさとるくんに言う。


「ご、ごめん。迷惑だよね。やっぱりい」

「おい」


 いいよ、と言おうとしたのに、今度はさとるくんがわたしを遮った。

 怒った声に怯えながらさとるくんを見ると、彼はわたしを笑った男の子を見ていた。


「忘れ物なんて、誰にでもあることだろ。そんなことでいちいち騒ぐなよ」


 真剣な顔でそう言うさとるくん。

 男子の方は、ばつが悪そうな顔をして自分の席に戻っていった。


「ごめんね」


 ぽーっとしたままだったわたしに、さとるくんが言った。


「う、ううん!大丈夫っ!」


 わたしははっとして首をふる。

 さとるくんはほほえんで、


「教科書、一緒に見ようか」


 と机をくっつけてきた。

 頬がさっきよりもっと熱くなる。

 始業のチャイムが鳴って、先生が入ってくる。


 この日、わたしは恋に落ちた。

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