第一章 VS ヒグマ エピローグ 02

ザクッ、ザクッ。雪道を踏みしめる音が響く。それ以外は風の音と、鞄を引きずる音。


にゅんよは、にゅんを伴ってくだんの洞窟に来ていた。そう、鉛玉の住処だ。


「いるんでしょ。出ていらっしゃい。」

にゅんよが洞窟に声をかける。奥の方でガサリ、と山が動いた。


「なんだ、お前さんかい。なんの用があるんだ?」

山が声を放つ。


「あなたは私に素晴らしいプレゼントをくれたわ。素晴らしい死合い、をね。だからこれは感謝のしるし。」


にゅんよはそういうと、軽々とジェラルミンのケースを放り投げた。


「いわばファイトマネーね。しばらくの間、このにゅんちゃんを置いていくわ。人間との交渉に使いなさいな。通訳ハムスターが見つかるまでの間ね。」

にゅんにとっては寝耳に水の話。今初めて聞いたという驚きと、でもいつものことと諦めを同時に浮かべた表情をにゅんよに向けた後、鉛玉に向き直る。


「えっと、そういうことみたいですにゅん…。」

にゅんが力なく挨拶する。


何が起きてるのか分からない鉛玉も、にゅんが可哀そうな扱いを受けているのはよくわかった。にゅんに憐れむような目つきを送りながら、ぎこちなく挨拶を交わす。「あ、ああ…。こちらこそ、よろしく頼むぜ。」


「さて、今回の事件、発端はあなたに食料がなかったこと。だからこの冬は、そのお金を使って人間から買えばいいわ。そうすれば私は、”鉛玉の被害はもう出ない”と報告できるの。もちろん、あなたには人の肉の味は忘れてもらわないといけないけれど。」


「名残惜しく…はねえな。臭みが強くて食えたもんじゃなかったぜ。ただ、わらわら群れていやがったから狩りやすかっただけさ。」


獣らしく鉛玉は言う。弱肉強食のにゅんにゅんワールド、強者である鉛玉が弱い人間をエサにしていたことには別段罪悪感もないらしい。


それはにゅんよも同じこと。人を手にかけたことを、ここでとやかく言うつもりはない。


「じゃあ私は行くわ。この世界には、まだまだあなたよりも強いやつがいるはずよ。私は、そいつらを片っ端からやっつけてやりたいの。」


決意を胸に、にゅんよは歩き始める。


こうして次の闘いまで、にゅんにゅんワールドはつかの間の平和を得たのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る