第一章 VS ヒグマ ~エピローグ~

第一章 VS ヒグマ エピローグ 01

激闘から3日後。にゅんよは今、鉛玉対策本部の前に立っていた。


本部内は静まり返っている。先日までの怒号飛び交う議論はどこに行ったのか。あの時、口に泡して騒ぎ立てていた者たちの姿はもはやない。今や撤収の指図が飛ばされるだけで、粛々と作業が進んでいる。


「邪魔するわ。」

にゅんよが扉を開く。


「お待ちしておりましたよ。」

前回同様、影を背負っている男が応えた。


「もう情報は伝わっていると思うけど…。鉛玉が人を襲うことは無くなったわよ。」


「そのようですね。しかし、このような結末は思ってもみませんでしたよ。」

影、吉良が言葉を続ける。

「まさかあのような手段があるとはね。いやはや、恐れ入りました。」


「お世辞…と分かっているけど、素直に褒められたと思っておきましょう。

それより、今日来たのは…。」


「おっと、皆まで言わなくとも分かっております。こちらですね。」

吉良がジェラルミンのケースを机の上にのせる。


「中身を確認していただけますかな。」


「そうね。では、私も証拠をださないといけないわね。」

そう言うとにゅんよは頬袋から金属の塊をとりだした。カラン。机の上に転がる音が響く。


「これが例の銃弾よ。撃った銃と照合してもらってもいいわ。」


「これですか…。話には聞いておりましたし、映像も見ているのですが…。やはり本物を目の前にしますと、背筋が凍る思いですよ。」

そう口では言いながらも、吉良は興味深そうに眺めている。


「まさに珍品ですね。いいでしょう、ポケットマネーで1000万。この銃弾、私のコレクションに加えましょう。」


吉良が予想外の発言をする。驚くにゅんよを前に、言葉を続ける。


「いえ、これは私の個人的な感謝の意ですよ。それに、本来の報酬の方の使い道は既に決まっていたのでしょう?」


吉良が口の端をゆがめる。笑っているのだ。にゅんよも、驚きから喜びの表情に変わる。

「そこまで読んでいたとはね…。これだから、人間相手の交渉は難しいのよ。いい、これからわたしがすることは秘密よ。あまり、慈善家だと思われるのもちょっとね。」


「分かっていますよ。」

吉良はそっと、もう一つジェラルミンケースを取り出した。スッと、机の上にのせる。

「ではこちらが銃弾の分として。お納めください。」


「ありがとう。なんというか…。あなたは敵に回したくないわね。一緒に仕事ができてよかったわ。」

「いえいえ、こちらこそ、ですよ。」


一匹と一人は、握手を交わして別れた。



「待って、にゅんよちゃん!これ重い!」

ケース二つを持たされたにゅんの悲鳴は、誰にも響かない。

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