第一章 VS ヒグマ バトル! 02

にゅんよは組手立ち。左手を前、右手を後方に、「上段の手構え」。肩幅のまま左足は前に一歩出す、右足は後ろ。


「チェストォー!」にゅんよの気合がこだまする。見た目は普通の正拳突き。足と腰、下半身に溜めを作り、右拳をひねりながら前に突き出す。鉛玉は余裕の表情を崩さない。いかに最強と名高いハムスターと言えど、その体格差は10センチVS10メートル、およそ百倍。鉛玉がその戦力を読み違えたのも無理はない。


「はっはぁ、そのようなもの、この俺様には屁でもねぇ…ぐはぁ!?」苦悶の表情を張り付かせながら、体をくのじに曲げる鉛玉。


「貴様ぁ、一体何をした!?」驚愕を隠そうともせず、鉛玉は叫んだ。


「あら、普通の空手よ。ごくごく普通の、ね。ただ少し、私の霊気を上乗せしただけ。」


空手の基本技、正拳突き。そこににゅんよはエクトプラズムをまとわせることで、威力と射程を跳ね上げさせている。心霊空手エクトプラズム正拳突き。にゅんにゅんワールド広しと言えど、この技を使えるものは多くない。


鉛玉の顔から余裕が消えた。


連戦連勝だった今までのヒグマとしての生。同じヒグマといえど、彼に勝てるものはいなかった。縄張り、餌。全て欲望の命ずるまま、勝ち取ってきた。圧倒的なまでに恵まれた体格で、彼は全てをねじ伏せてきた。


額を汗がつたう。牙をむき出しうなり声をあげ、己を鼓舞する。恐怖に屈しそうな膝を叩き、渾身の力で直立を維持。鉛玉は今、生涯初めて、恐怖を感じている。


これが、「野生」の闘い。ここ、にゅんにゅんワールドに生きるものなら皆、本能的に相手の野生を感じ取ることができる。


だからこそ。鉛玉は戦慄している。にゅんよが発する、未だかつて感じたことのない野生。その力は計り知れないものがある。認めたくはない。鉛玉は咆哮する。認めた瞬間、自我が崩壊しかねない。


にゅんよの野生は桁違いなのだ。普段は抑えているが、全てを開放したら何が起こるのか。にゅんよ自身でさえ、その限界を知らない。今まで、必要としなかったからだ。


にゅんよは、限界を知りたい。

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