第一章 VS ヒグマ ~バトル!~

第一章 VS ヒグマ バトル! 01

吉良の言葉によれば、鉛玉の住み処は既に割れている。雪積もる山の、奥深く。普段であれば誰も踏み込まぬ場所に、奴は居を構えている。


深山ににゅんよの歌がこだまする。手がつけられないほどの上機嫌。これから待ち受けるは、強者との闘い、そして多額の報酬。にゅんよのテンションは、そして「野生」は、否が応でも高まる。


「にゅんにゅんワールドのリーダーは

にゅんよちゃん にゅんよちゃん にゅんよにゅんよちゃん

強くて明るく銭が好き

にゅんよちゃんにゅんよちゃんにゅんよにゅんよちゃん


にゅんよちゃん

にゅんよちゃん

心霊空手

(押忍 押忍 押忍)


みんなで楽しくジェノサイド

にゅんよちゃん にゅんよちゃん にゅんよにゅんよちゃん」


聞き慣れたあのメロディーで、にゅんよが高らかに歌う。


地元猟師に案内され、山の洞窟に辿り着いたにゅんよ。案内人が震えていたのは、寒さのせいだけではない。強敵と出会えるという緊張と興奮により高まるにゅんよの「野生」に、耐えるため必死だったのだ。とどめに、にゅんよの歌が案内人の精神を根こそぎ削り取っていた。


「そ、それでは、俺はここで失礼いたします。ご武運を!」かじかむ手をこすり合わせながら、猟師は帰路を急いだ。ここでカメラでも回していれば一儲けできる、と目論んで志願した道案内だったが、「野生」にあてられて猟師はそれどころではなくなっていた。


それでも、遠隔操作タイプのカメラをおいていくことは忘れない。これさえあれば今年の冬が越せる。猟師の顔は皮算用にゆるんだ。



にゅんよが洞窟の入口に立つ。いる。奴は、中に。巨大な気配が一つ。大きな影が動く。


「あなたが鉛玉ね。」にゅんよの目の前には身の丈10メートルを超えるヒグマがいる。呼びかけに対して大儀そうに、「ああ、そう呼ばれているらしいな、俺は。」と答えた。


にゅんにゅんワールドでは、動物同士は会話をすることができる。人類が失った能力、念話を通して。テレパシーといっても差し支えない。人語と念話を同時に使える生物は、世界中を探してもハムスターしかいない。そのために人々と動物の橋渡しとして活動する者もいる。


その念話を通して、今、にゅんよと鉛玉はお互いを探り合っている。


「申し遅れたわね。私の名はにゅんよ。あなたを狩る者、よ。覚えておきなさい。あなたが最後に出会う生き物になるんだから。」にゅんよは挑発的に切り出した。


「俺を狩る?この俺様を狩るだと!お前さんとは初対面だが、ずいぶんな挨拶じゃないか。」吼える鉛玉。

「俺だって伊達にこの世界で生き抜いてきた訳じゃない。強い奴に対する嗅覚ってのは、人並みに身に付けてるつもりさ。たしかにお前は強そうだな。ただのハムスターって訳じゃないみたいだ。油断ならねえ。並みのハムスターってだけでも厄介なのによ、お前はそれだけじゃなさそうだな。」


歯を剥き出して威嚇の声を上げながら、その粗暴な振舞いとは裏腹に慎重に間合いを測った。ゆっくりと、見せつけるように巨体を持ち上げながらにゅんよを睨みつける。


「あら、随分大きな図体しているのね。ちょっとだけ驚いたわ。でも、それだけなのかしら?だったら拍子抜けね。」にゅんよは相変わらず挑発を止めない。


「ふん、大きな口を叩けるのも今のうちだけだ。お前は俺に勝つつもりでいるようだが、俺だって素直に負けてやるつもりはないぜ。」鉛玉も負けじと怒声を浴びせる。


じり。にゅんよが足元を確かめながら問合いをつめる。これ以上、言葉を重ねる必要はない。互いに、初手を出すタイミングを図っている。

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