第一章 VS ヒグマ 06
「ホント、話が早くて助かるわぁ。」にゅんよが笑顔を振り撒く。
「何、天秤にかけただけですよ。日当1万の1000人態勢で山狩りをするよりも、あなた方に任せた方が確実だ。地元青年団から機動隊・自衛隊に要請することも考えましたが、それも無料とはいきませんからね。億単位のお金が飛んでいきかねない。それに比べたら…。」
吉良が肩をすくめる。「安い買い物、ですよ。」ちらりと隣の人物に目を向ける。視線を受けた長身痩躯の男は一瞬取り乱したものの、平静を取り戻したようだ。おそらく、財政を任されている者なのだろう。その男も頭の中で算盤を弾き、納得したようだ。
「支払いはキャッシュで頼めるかしら。」
「ええ、それはもちろん。にゅんよ様のご要望通りにいたしますよ。」
周囲はまだざわめきが消えていない。現金払い、一千万という額、そしてそれを安い買い物と言い切った責任者。トップ同士のやり取りで、すでに交渉は終わっている。自分たちが入る余地は無いことがわかっていながら、それでも文句を言うものがいるのは仕方のないこと。それは我々の世界でも、ここ、にゅんにゅんワールドでも変わらない真理のようだ。
「案内は頼めるかしら?私に入ってきている情報だと、ねぐらはすでに掴んでいるとか。」
1千万という額が即決され、にゅんよは気分が良さそうだ。待ち受ける強敵との闘いの興奮。報酬額への満足感。鼻歌でも歌い出しそうな気配すらあった。
「さすがにゅんよ様、そこまでご存知でしたか。なに、隠し立てするようなものでもありません。ただ、物見遊山で来られて犠牲者が増えるのは御免被りたかったというだけです。何せこれだけ大騒ぎになっているのです。危ないと呼びかけたところで、むしろ喜んでやって来る輩はどこにでもいますからね。」
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