第一章 VS ヒグマ 05

「なるほど、本物のにゅんよ様なのですな。」


鉛玉対策本部に、低い声が響いた。部屋の最奥、逆光で顔が見えない人物。その立ち居振る舞いから、この現場で一番の責任者だと推測される。


その影が立ち上がった。「私がここの責任者の吉良という者。いや、君たちほどの強者に私の名前を告げても無駄かもしれませんな。とにかく、要件は鉛玉についてですね。お話を伺いましょう。」


「よかった、話が早くてたすかるにゅん。ねえ、にゅんよちゃん。」

「そうね、にゅんちゃん。」


「さて。」

にゅんよは笑顔と威圧感を振りまきつつ、口を開いた。


「私がにゅんよであることは納得していただけたようですね。では本題に入るとしましょうか。


私、にゅんよが求めるのは強者。闘うことこそが望み。でも、それだけでは物足りないのよねぇ。分かるかしら?」


ハムスターの中でも最強と名高いにゅんよを前にして、この対策本部内で唯一にゅんよの覇気に気圧されていない影の人物。それだけで、並みの人間ではないことがうかがえる。


人影が答えた。「それは…。お金、ですかな。」


「ご名答。私は闘うのと同じくらい、お金が大好きなの。だから今回の熊退治、ボランティア、というわけには行かないのよね。」


そう言うとにゅんよは指を一本立てながら、周囲を見渡した。「だいたいこのくらいかしらね。」


周囲が一瞬にして静かになった。べつに、にゅんよは意識して威圧しているわけではない。むしろ、笑みをさえ浮かべて辺りを見回している。

果たしてこの「1」はいったい何を意味するのか。ここでうかつなことを言えば「まずいこと」になる。それは皆、理解していた。ゆえに、誰も発言できないでいる。


「にゅんよちゃん、にゅんよちゃん。」

先ほどにゅんと名乗ったもう一匹のハムスターが小声で囁く。「にゅんよちゃん、みんな声出せなくなってるにゅん。えっと、ひゃ、百万くらいにゅんよね?」


「なんだ、百万くらいなら…。」

にゅんの助け舟に、あちらこちらで声が上がる。その声には安堵の様子が見られる。


しかし、にゅんよはため息をつき、顔をしかめた。


「にゅんちゃん、まだ私のことをわかってないみたいね。ゼロ、足りてないわよ。」


「え…。うんにゅん…。ゼロ、いくつ足りないにゅんか?」にゅんがあたりを気にしながら問う。今にも謝りだしそうな雰囲気をまといながら。その謝罪は、対策本部の人間に対してか、それともにゅんよに対してか。


ゼロが足りない。その言葉を聞いて一同が青褪める。いくつだ?いくつ足りない?


「2つ足りない…。と言いたいけど、今回は強敵と闘えそうだから気分がいいの。ゼロ、1つでいいわ。」

にゅんよが明るく言い放った。


「一千万ですか...。いえ、かの有名なにゅんよがここまでいらっしゃつたのです。妥当なところでしょうな。」

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