第一章 VS ヒグマ 03

そんな中。

「お困りのようにゅんね。」鉛玉対策本部に、場違いな声が響く。


声につられて皆が入り口に目を向ける。開かれたドアには誰も…。いや、いる。会議参加者が目線を下げていくと、そこには二匹のハムスターがいた。


「なんだお前たちは!」声を荒げる者もいる。しかし、逆に期待の目を向ける者も多数いた。この世界の住人なら知っているのだ。ハムスターが地上最強の生物と呼ばれていることを。そして、その呼び名に嘘偽りがないことを。


ハムスター。この並行世界では恐怖と尊敬のまなざしを向けられる存在。見た目は普通のハムスターだ。体長はゴールデンハムスターで10センチから15センチ。体重は80から150グラム。キログラムではない。グラムだ。我々の知るものと大差はない。

異なるのは、二足歩行、そして手の使用が可能であり、人語を解すことだ。


ハムスターを最強たらしめているもの。それを語るには、このにゅんにゅんワールドと我々の世界との違いを述べる必要があるだろう。にゅんにゅんワールドには各生物・各個体に「野生」という属性がある。未だ測定・数値化は難航しているが、この能力が高いほど闘いにおいて大きなアドバンテージとなると言われている。この野生、大体においては我々の世界の動物のイメージと比例していると言っていい。小動物では小さく、大型肉食動物では高い傾向がある。この世界でも、野生という属性の点からもウサギはライオンに勝てない。


しかし、何事にも例外はある。そのイレギュラーな存在が、ハムスターだ。その野生は体格に反して異常に高い。百獣の王も、ハムスターに睨まれただけで委縮する。逃げることができるライオンはまだ強い方で、大半はいわゆる腰が抜けた状態になり、野生の弱いものは気絶すらしかねない。

それがこの世界のハムスターなのだ。


そんなハムスターが鉛玉対策本部に来た。何のための来訪かはまだわからない。だが、ハムスターならあるいは。そう考える者がこの場にいたのは事実だ。


そんな期待のこもった眼差しに気づいた来訪者の一匹がはおどおどしながらここに来た理由を告げた。


「にゅんの名前はにゅん。それから、このなんか強そうなオーラを出してるのがにゅんよちゃん。今話題のヒグマを狩りに来ました。あ、にゅんは付き人とかマネージャーとかしもべとか召使いとか下僕とか奴隷とかいろんな呼ばれ方をされる下っ端です。」

「何よにゅんちゃん、それじゃ私が悪いみたいじゃない。今ご紹介にあずかりましたにゅんよです。以後よしなに。」


卑屈な一匹と、溢れんばかりに強さをみなぎらせている一匹がそこにいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る