第35話 vs 勇者

 目の前に現れた『勇者 ヘレナ』は光り輝く長剣を高く振りかぶり、


「はあっ!!」


リオンの頭目掛けて振り下ろした。


—ガッ


漆黒の魔力を纏った手刀で受け止めるリオン。


「くっ…」


「…ふん」


短いつばぜり合いの後、二人が互いに弾かれた様に離れる。


ヘレナは地上に着地して剣を構え、リオンは背中の翼で安定した姿勢のまま空中で止まる。


リオンが両掌を前に向けると、漆黒の魔力で作り出された巨大な黒い球体が出現した。


巨大な黒い球体はゆっくり動いて横に回転すると、それを中心に強力な引力が発生し、周囲にまだ残っている町の建て物や瓦礫、町外れの森の木々を吸い込んでいく。


『うわあああー!!』


「ふぁあああー!!」


黒い球体の引力により根元から引っこ抜かれた木々等が吸い込まれていく中、


サクタロウ&家老達は刀を地面に刺し、メイラは足を地面にくっつける魔法を使って、吸い込まれまいと踏ん張っていた。


ヘレナは強力な引力に体を前に引っ張られそうになりながらも、半身になって腰を落として堪える。


「すぅ~…」


深く息を吸いながら腰を捻り、剣を後ろに引く。


「…よしっ!」


バックスイング気味に目一杯後ろに引いた剣の刀身が白く光輝く。


迫り来る黒く巨大な球体を前にし、柄を握る手に力を込め―


「っはああああああー!!」


強力な引力に引っ張られて宙に浮いた体を勢い良く捻って回転させながら、刀身から白い光の刃を放つ長剣を振るう。


─ザンッ


刀身から伸びる光の刃が大きく弧を描いて地を削り、巨大な黒い球体を真っ二つに斬り裂いた。


綺麗に分断された黒い球体がゆっくりと消えていく。


(何でも消せるはずの闇の魔法を、斬った!?)


「……ほう。ならば、これはどうだ」


リオンの体から黒煙の如き漆黒の魔力が広がる。


魔力により三つの渦巻く大きな円い闇の空間が作られ、その一つ一つの中から巨大な獣の頭部が顔を出す。


─グルルゥ…


─ガルルゥ…


─バルルゥ…


大きな口に並ぶ鋭い牙を覗かせたを持つ巨大な獣の眼がヘレナに向けられる。


「─っ!」


「…行け、犬ども」


─ガアァァッ


巨大な黒い獣が闇の空間から首を伸ばし、牙を剥き出しにしてヘレナに襲いかかる。


ヘレナが長剣の切っ先を上に向け、


「光よ、天より悪しき者に罰を下せ【天降剣】」


魔法の名を唱えるとともに切っ先を前に向ける。


天より降りし三本の光の剣が、三つの頭部を貫いた。


─ギャンッッ!


短い悲鳴を上げた巨大な黒い獣は、光の剣が頭部に刺さったまま闇の空間へと引っ込む。


その後、闇の空間は収縮して閉じて消えた。


 激しい攻防が止まり、一時の静寂が訪れる。


「……ふん。」


「……フン!」


(いや勇者、強っ!)


あの天才魔導士メイラを圧倒したリオンと渡り合っている。


それに、魔法を消し去るリオンの闇の魔法にも対抗しているようだ。


「破魔の光か…」


(え、あの魔族の力を弱体化させる光の魔法とかいうやつか?)


リオンの闇の魔法にも有効なのか、あれ。


(魔法の効力を弱体化させたから、闇の魔法を斬る事が出来たていう事か。)


「…あの力は、本来は闇の魔法に対抗するためのもの。故に闇の魔法にこそ、その真価を発揮する。」


(じゃあ、お前の天敵じゃん!)


人も魔法もあらゆる物を呑み込んで消し去るという、無敵の様なリオンの力にも相性の悪い力があったのか。


「…勇者よ、少しは成長したようだな。あらゆる物を吸い込み、闇へと葬り去るの闇の球体と、全てを喰らい尽くすの闇の番犬を凌ぐとは。」


(…お前の魔法、最強ばっかりだね)


「そういうあなたは、弱くなったんじゃないかしら。調子でも悪いの?」


(そういや、さっき万全じゃないって言ってたけど…)


が…。俺の攻撃を少し凌いだくらいで調子に乗るな。貴様ごとき、簡単に消せるということをその身をもって教えてやる。」


そう言ったリオンの背中に、六枚の闇の翼が現れる。


(これは、もしかしてさっき使った【死の庭園】ていうやつをまたやる気か!?)


ジャホン国の町の半分近くを消し去ったやばい魔法。


「…来なさい」


ヘレナが正眼に剣を構え、その体が強く光り輝く。


その身から鋭い光芒を放って辺りを照らし、その背後には日光の輪郭の如き後光が顕現する。


「私の力で、あなたの力の全て打ち破ってみせるわ!」


(これは…)


 魔王軍幹部三傑の一人、終焉の王リオン対人間軍最強格、勇者ヘレナ。


【全てのものを消滅させる闇の魔法】と【魔の者を弱体化させる光の魔法】の対決。


『全てのものを否定する力』と『魔の者を否定する力』のぶつかり合い。


(くっ…これは、かなり激しい戦いになるぞッ)


まさに、頂上決戦。


俺にはわかる…


これはとてつもない戦いに――



「…ちっ」


(ん?)


「やはり、人間ども程度の魔力では俺を完全に目覚めさせる事は出来ないようだ…」


(んん~!?)


えっ…。


なんか嫌な予感がするんだが。


「…ここまでのようだ。俺は再び眠る。…あとは、任せたぞ」


(はぁいいいいいいいぃ!?)


「…ふん、返事だけは頼もしい奴だ」


(ちげえよ!Yesって意味じゃなくて…え、リオン?)


言葉の通りリオンの意識は再び眠ってしまった。


体の主導権が俺へと移り、体の感覚が戻る。


(ちょっ、えええええ!?マジですか?)


「行くわよ、リオン!」


(げえっ!?)


地上でピカピカに光りまくってる勇者が、スタンバイ完了!第二ラウンドじゃ!と言わんばかりにこちらを睨む。


「今日こそ決着をつけるわよ、終焉の王リオン・アウローラ!!」


(ち、ちょっ…、チョット待ってくださいよおおおおおおお!!)

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