第34話 終焉の王

 魔王軍幹部 三傑の一人、


【終焉の王 リオン・アウローラ】


『彼の者戦場に現れし時、その戦いは終焉を迎える。』


…と、言われているらしい。


 そのリオンが目を覚ました。


「…相手は、西の国の魔導士の小娘か。…ふん、くだらん。」


本物リオンが出て来た!)


己の身体の主導権を俺から自分に戻したリオン。


胸の前で腕を組み、威圧感のある気配を醸し出している。


(おお…、もしやこれは何とかなるんじゃないか?)


先程リオンは、メイラ達の攻撃を防いでみせた。


リオン(本物)なら、このピンチを打開出来るかも知れない。


(だがしかし、相手は天才魔導士。そう簡単にはいかないかもしれないが…)


「う~…眠くて力が出ない~」


(え!?)


 空中に浮いてるメイラが、揚げ凧みたいにフラフラし始めた。


「っふぁあ~~…」


そして、口を大きく開けて欠伸。


「魔法を使い過ぎて、体力が限界で…ねむい。」


 本当に眠い様で、メイラは半目になってヘッドバンキングみたいに頭をカクカク振っている。


「ふぁ~、まずい。魔力が戻ったリオンを前にして寝るわけには…いかにゃい…んあ…zz…」


―カクッ


(寝た!)


吊るされた様に、宙に浮いたまま。


「う~…、を使うしか…にゃい…すぴ~」


 目と眉を『ハ』の字にして鼻提灯を膨らませながら、メイラはローブから小さな瓶を取り出す。


(なんだ?あれは)


「これは高級ポーション、『メガ・サメール』」


(メガサメール!?)


「飲むと、目が覚めるんだよ…zz」


(そのままやんけ。)


「さらになんと、魔力と体力も回復するよ…zzz」


(なぬ!?)


…ファンタジー世界の栄養ドリンクかな?


寝ぼけながらもメイラはコルクを開け、そのままメガサメールを飲み干した。


「ゴクッ…ぷは~」


(の、飲んだ!)


「むっ!!」


 鼻提灯がパァンッと破裂。


メイラの目がカアッと見開き、全身から魔力が大火の様な勢いで噴き出す。


「よっしゃああー! 私、覚醒ー!!」


(目が覚めた!)


 効き目、やばっ。 即効性過ぎるだろ。


「戦闘おおお、いっぱあああつ!」


 眠気が無くなって目を爛々とさせたメイラが、杖を高く掲げる。


すると、空中に20個の大きな魔法円が出現する。


(あの杖を高く掲げる動作と大きな魔法円は、まさか!)


「説明不要ッ!【精霊の鏡遊び】!!」


(またかよ!!)


 駄洒落みたいな名前のポーションで回復したメイラの魔力により、新たな分身達が次々に魔法円から姿を現す。


(くそう、戦力を追加投入してきやがった!)


もともといた分身達とメイラ本人を合わせて、総勢で敵は50人。


「リオンを倒すには、これくらいの数は必要だよ。さあ、いくよ…」


『勝負だ、リオン・アウローラ!!』


全く同じ顔の魔導士全員が一斉にこちらに杖を向けて、宣戦布告する 。


(せっかく魔力が使えるようになって、リオンも復活したっていうのに、これじゃあ多勢に無勢だ!)


圧倒的な敵の数に焦る俺であったが、


「…ふん」


リオンは一切動揺する事無く、短く鼻を鳴らすのみ。


「小娘の分際でこの俺と勝負だと?…いいだろう、少し遊んでやる。」


リオンはそう言って、組んでいた腕をほどく。


『……―っ!』


その僅かな動作だけで、サクタロウ達含めてこの場にいる全員が息を呑み、メイラ達は身構える。


(た、戦うのか…)


 魔王軍幹部 三傑の一人、終焉の王 リオン。


危機的な状況の中でも一切動じない最強クラスの魔族が、動く。


(一体、何をするつもりだ…)


 リオンは片手をゆっくりスゥ…と静かに動かし、自分の顔の前まで持っていく。


そして、


顔の半分を片手で覆い隠し、こう言った。



「さあ…、終わりの始まりだ。」



(………………)


な、何だ? その決め台詞と厨二…いやヴィジュアル系みたいなポーズは…


「そ、その構え…、その言葉はまさか…」


リオンの謎ポーズと台詞に、メイラが一粒の汗を流す。


「『落日の宣告』!」


(なんて!?)


「あの禍々しい構えを目にし、その言葉を聞いた者には終末が訪れるという、死と絶望の宣告…」


(片手で顔を覆って指の隙間から覗き込むようなこの厨二病ポーズに、そんなすごい意味があるのか!?)


「なんて隙の無い構え…ッ!しかしッ、私は簡単にやられたりはしないよ!」


―バッ


オーバーサイズのローブをはためかせて、メイラが爛々とした強い目でリオンを真っ直ぐ見据える。


「覚醒したこの私、『メイラ・クローザ』の真の実力を見せるよ!」


「…来るがいい、魔導士の小娘。目覚めの運動程度に相手してやる。」


 眠りから目を覚ましたリオンと、眠気から目が覚めたメイラ。


覚醒した二人が相対し、先に一人…いや、50人が同時に動く。


 メイラの前に五つの大きな魔法円が出現し、同様に分身達の前にも複数の魔法円が出現する。


魔力を帯びた大量の魔法円が、曼陀羅図の様に町の上空に浮かび上がる。


「火よ…―」


「雷よ…―」


「光よ―…悪しき敵を―」


「ナントカ…カントカ…」


 魔力を込めながらが呪文を唱え、


「撃てーーーーーー!!」


メイラ本人の号令により、展開されていた全ての魔法円から一斉に攻撃魔法が飛び出す。


(ぎゃああああああ、キタ――(゚∀゚;)――!!)


町の上空から様々な魔法の大群がこちらへと降りかかる。


「騒がしい奴らだ…」


 そう呟くリオンの顔を覆う手から、漆黒の魔力が現れる。


溢れ出る魔力を手の内に集中させ、溜め込んだ魔力を片手で押し出して解き放つ。


(おお!?)


立ち込める黒煙の様なが広がり、降りかかる攻撃魔法を吞み込む。


「ふぁっ…!?」


色とりどりのあらゆる攻撃魔法の大群が、一瞬にして漆黒の闇へと消えた。


「町を二回は壊滅出来る程の威力がある私と分身達の総攻撃が、全て闇に呑み込まれてリオンに届かないよ!」


 メイラが目の前に広がる闇を苦々しく見ていると、


「—むぐっ!!?」


『─っっ!?』


 突如、闇の中から手が現れ、一人の分身の口元を鷲掴みにする。


―バサッ


背中の翼を羽ばたかせ、闇を取り払ったリオンが姿を表す。


「いつの間に!?」


「…消えろ」


 無慈悲に短くそう言い、鷲掴みにした手から黒煙の様な揺らめく漆黒の魔力が放たれる。


浴びる様に漆黒の魔力を受けた分身が、跡形も無くリオンの手から消えた。


(うおっ!?)


「――っ!? わぁああ!!」


 少し反応が遅れて、わあっ!とメイラと分身達が慌てふためいてリオンから距離を取る。


「…如何に強力な魔法を使おうが、俺の前では全て無へと変わるだけだ。」


 リオンが横薙ぎに手を振るい、漆黒の魔力を放つ。


黒煙の如く揺らめく魔力が広がり、一度に何人かのメイラ分身を呑みこんで消し去った。


「ぐっ…おのれ、リオン!」


 キッとメイラが、リオンを睨み付ける。


「私の分身達、散れー!」


『おーーーー!』


 分身達が散り散りにあらゆる方向に飛んでいき、空中でリオンを囲む。


(おい、囲まれたぞ!どうする!?)


「頭の中で騒ぐな。小娘どもが飛び回っただけの事。…どうということはない。」


(こいつ、全然動じないな…)


「私の分身達、しっかり狙って! リオンを袋叩きにするよ!」


 再びメイラ達各々の前に複数の魔法円が出現する。


大量の魔法円がベン図の様に重なり合い、全方向逃げ場の無い魔法円の包囲網が出来上がる。


(まずい!このままじゃ、魔法攻撃でファンタジーな袋叩きにされるぞ!)


「…ふん。この程度、どうという事はない。」


(お前、本当に動じないな!)


やばい状況のはずだが、顔色を変えないどころかマジで眉一つ動かさない。


(魔法円で周りをびっしり堅められていて、身動きが取れない!どうすれば…っ)


「…くだらん」


 突然、リオンがその場で体を回転させながら漆黒の魔力を放つ。


渦巻く暗雲の如く、リオンを中心に螺旋を描いて広がる漆黒の魔力がメイラ達の前を横切っていき、取り囲む全ての魔法円をさらう様に消し去った。


『――っ!?』


 空中で一回転し、安定した姿勢でリオンが止まる。


あっという間に魔法円の包囲網が消えてメイラ達が唖然とし、漆黒の魔力が霧散してく中、


リオンがキリッと引き締まった顔で言う。


「…己を阻む物があれば、消せばいいだけだ。」


(こ、こいつTUEEEEーすぎる!)


「あわわわ~、そ、そんな~!」


『あわわわわ~!』


分身総出の大技をいとも簡単に破られ、メイラと分身達の顔が青くなる。


「…さて、俺から行くぞ。」


—バサッ


 漆黒の翼を羽ばたかせ、リオンが空中を素早く移動する。


「ああっ—」


「ぎゃっ—!」


「ひぃっ!?」


振り払う様に漆黒の魔力を放ち、すれ違い様に次々に分身達を消滅させる。


「あっ…、あわわわ」


「…どうした、小娘ども。もう、蠅のように鬱陶しく飛び回るのはやめたのか? 」


「ぐっ…」


『あ…うっ…』


問いかけるリオンの鋭い視線に、たじろぐメイラと分身達。


攻撃魔法は消され、分身精霊達もが次々に消されていく。


徐々に追い込まれていく状況に、メイラ達は体がすくんでいた。


「…どうやら、ここまでのようだな。」


 攻撃の手を止めたメイラ達を見てリオンはそう言い、胸の前で腕を組む。


(すごい。あのメイラと分身達を、圧倒している!)


 これが、魔王軍幹部 三傑の一人の実力。


(っというか何なんだ、あの黒い魔法は…ん? )


 頭の中に一つの名が浮かぶ。


【 終焉の闇 】


(なんだ、これ?)


「…俺が使った魔法の名だ。」


俺の疑問に、リオンが応える。


「…全てを覆い尽くして呑み込み、触れたものを消し去る。最強の闇の魔法だ。」


(おお、なんかすげえ!)


「…俺のこの漆黒の魔力は、死を司る深淵なる闇そのもの。 」


(お、おう。そうなのか)


よくわからんが、凄そうだ。


「そう…、闇は万物を漆黒に染め上げ、ことわりとともにその存在を世界の認識から外し、冥府へといざない、暁の日の最後の審判まで無にして有であるが有限ではない無限であり永劫の時が流れる暗闇の中で終極の彼方にある堕ちた楽園へと—」


(はうっ!?)


なんか抑揚の無い低い声でめっちゃ喋りだした。


な、何を言ってるんだ、コイツは…。


「…闇の魔法には」


混乱する俺に構わず、リオンが話を続ける。


「この闇の魔法である【 終焉の闇 】を高めた更なる闇の魔法が存在する。」


(最強の闇の魔法の他に、さらに最強の闇の魔法…だと)


…最も強いのが二つもあるのか。


「…それを見せてやる。」


そう言うと、リオンは再び片手で顔を覆い隠すヴィジュアル系の様なポーズえをする。


(何で手で顔を覆っているんだ?もしかして、顔を痛めて―)


「…違う。闇の深淵を覗いているのだ。」


(そ、そうなのか?)


「そして、深淵もまたこちらを覗いている。」


(…そ、そうか。)


なるほど。わからん。


「…終わりにするぞ。」


リオンのその言葉に、メイラがビクっと肩を動かす。


「ま、まだだよ!まだ、私は負けてない!!」


圧倒的な力の差を見せつけられ、戦意を喪失した様に見えたメイラだったが、再び杖を前に向けて構える。


半分以下にまで減った分身達も構える。


「もうすぐ、ヘレナさんがここに来る。ヘレナさんが少しでも戦いで有利になるように、たとえ一撃だけでもリオンにくらわせるよ!」


 分身達が、再び空中を飛んで移動する。


四方に数を分散させたメイラ達は、各々の魔力を合わせて四つの特大魔法円を出現させた。


メイラ達全員が全力の魔力を込めて出現させた四つの特大な魔法円がリオンに照準を合わせる。


「全力最大威力の総攻撃、撃てー!!」


魔法円に杖を叩きつけ、この戦い最大で渾身の四つの総攻撃魔法が放たれる。


異なる属性を持つ四つの強大な攻撃魔法が、リオンへと向かう。


「…お前達に深淵を覗かせてやる。」


顔を手で覆ったままのリオンの背後に漆黒の魔力が集まり、六枚の漆黒の翼を形作る。


そして、暗く深く重くのしかかる様な威圧感のある低い声でリオンがを唱えるとともに、俺の頭の中に魔法の名が浮かび上がる。



「 【 死の庭園 】 」



 背後の六枚の翼から漆黒の魔力の奔流が放たれ、リオンの周囲へと拡がる。


上空を覆い尽くす巨大積乱雲の如き膨大な闇の集塊が出現し、四方から放たれた強大な攻撃魔法を呑み込む。


さらに拡がり続ける膨大な闇はメイラ達の特大魔法円を消滅させると、そのままその術者達へと押し寄せる。


『うっ…、うわああああああ!!』


分身達が、拡がり続ける闇に呑まれて消えていく。


「ぐうっ…!」


メイラは、一点の隙間も無く自身を囲む複数の魔法円の盾を出現させ、最高度の防御態勢を取る。


しかし、


術者を護るために堅められた魔法円の盾達は、押し寄せる闇に一切の抵抗らしい抵抗を見せる事は出来ず、遂にはそのメイラごと闇に呑み込まれてしまう。


 さらに拡がる闇は地上へと降りかかり、町の一部を覆う。


そして全ての脅威と周囲の物を消滅させた後、拡がり続けた闇は夜闇が明ける様にゆっくりと消え始める。


上空にいたメイラ達は一人残らずいなくなり、拡がる闇が下りた地上では建物等は消え、町の半分近くが何も無い綺麗な明地と化していた。


(ま、町がほとんど無くなってる!?リオン、やりすぎだろ!)


「…これが、最強の闇の魔法だ。広範囲に闇を解き放ち、全てを消し去って終わらせる。」


 明ける暗黒の中で闇の主は、静かに自身の両腕を胸の前で組む。


「死の庭園とは一切の生を許さず、闇の暴食の果てに創られる…終末の形だ。」


―キリッ


(いや、―キリッじゃないよ!町にいたサクタロウ達は無事か!?)


サクタロウ達がいる所にリオンが目を向けて、俺に見せる。


何も無い明地となった場所の一ヶ所だけ消されていない所があり、カラカサ君を抱きかかえて手を振るサクタロウと互いに抱き合って震えている家老達がいた。


「…ふん。少ないが俺に魔力を献上した奴らだ。消さないでおいてやる。」


(ありがとう!でも、できれば町も消さない方が良かった!)


リオンの恩情のおかげでサクタロウ達は無事だった。


(しかし、メイラは…)


闇に呑まれた少女を想う。


(まだ、あんなに若いのに…なんて可哀想な!)


「…ほう。俺がとはいえ、アレを前にして消滅を免れるとはな。」


(え?)


リオンの視線が移る。


その視線の先には、ポツンっと地面にへたり込んでいるメイラがいた。


(メイラ!? 無事だったのか)


「はぁっ…はぁっ…」


「『100年に一人の天才』というのは、あながち嘘ではないらしい。」


「…はぁっ…はぁ」


もはや体力的にも精神的にも余裕が無いメイラは、俯いたまま肩を揺らして呼吸をするだけであった。


リオンが掌を向ける。


「…だがお前はここで終わりだ、魔導士 メイラ・クローザ。」


リオンの掌から、無慈悲な終焉の闇が放たれる。


顔を上げず、へたり込んだまま動く気配を見せないメイラ。


(あの娘このままじゃ、本当に消されるぞ!?)


と思った次の瞬間、


「はああああああーっ!!」


絶望の時を破る力強い咆哮と共に振るわれた白く光り輝く長剣が、闇を切り裂いた。


「…ふん、来たか」


(あれは…!)


 斬り裂いた闇の残渣ざんさを輝く長剣で振り払い、姿を表す人物。


(あの長剣…、あの光…!)


その者は美しく長い髪をなびかせて、メイラをかばう様に凛々しく立っていた。


(あのまぶいネエちゃんはッ!)


絶望に打ちのめされていたメイラが顔を上げ、


「ふぁっ、へ…ヘレ…」


目の前に立つ人物を見て、顔が明るくなる。


─ゴッッ


 その人物が地面を力強く蹴って跳躍し、高速でこちらに向かう。


リオンは掌をその人物に向けて、闇を放った。


こちらに向かって来る人物は、放たれた闇を輝く剣で斬り裂きながら、何の躊躇いも無く上昇し続ける。


そして、


降りかかる闇を斬り払い、その身に白い光を顕す勇猛なる者がリオンの前へと姿を見せる。


(ゆ、勇者 ヘレナ・クリサライト!!)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る