第36話 I'll be back

「今日こそ決着をつけるわよ、リオン!」


(ちょっと待って! 俺達、入れ替わってるぅー!)


あの野郎、なんて場面で入れ替わってくれてんだ!


再び眠りに着いたリオン。魔力が不充分で、完全復活とはいかなかっらしい。


(くそう~、せめて勇者を何とかしてから代われよ!)


「あなたに挑み、敗れて散って逝った人達の無念、今ここで払うわ!」


破魔の光で全身がキラキラに輝くヘレナが、剣の切っ先を俺に向ける。


「先代の勇者だった、我が父の仇!」


(え、父の仇って…)


そうか、親をリオンに。


(しかもお父さんは先代勇者。なるほど、リオンは、ヘレナにとって因縁の相手だということか!)


「あと、先先代勇者だった祖父の仇!」


(祖父もか!? こりゃ、相当因縁深いぞ!)


「あと、私が所属する西の国の騎士団、『白銀の騎士団』の仲間達の仇!」


(家族と仲間もリオンに倒されたとあっては、想像以上に因縁が深―)


「あと、上位の冒険者ギルドで結成した『リオン討伐 ギルド連合』と『リオン抹殺 ギルド連隊 』、他にも『リオンマジ ぶっ○すギルド協会』に、『リオンくたばれ教会 最強処刑部隊 血のソムリエ』、『殺戮殲滅暗殺パーティ キレたナイフと愉快な仲間達』、そして『いや、もうリオン倒すの無理じゃね? ギルド連盟』とか諸々、あなたに敗れた人達の仇!!」


(なんか物騒な名前が出てきた!)


最後のやつ、なんか諦めてるし。


「あと、えっと~…」


(まだいるのか!?)


ヘレナが指を立てては折ってを繰り返し、数える。


「とにかくいろんな人達の仇!」


…とりあえず、リオンがいろいろな所から恨みを買ってるのはよくわかった。


(チラッ…)


背後を一瞥する。


俺の後ろには、入れ替わる前にリオンが出現させた六枚の闇の翼がある。


たぶん今スタンバイ状態で、いつでも闇の魔法を発動させる事が出来る状態だろう。


(出来れば戦いたくないが、いざとなったら闇の魔法で…)


などと考えていると、


「うっ…」


―バタッ


(―っ!?)


「メイラ!?」


少し離れた場所にいたメイラが倒れ、ヘレナが駆け寄る。


「メイラ、大丈夫!?」


「うぅっ…」


ヘレナに抱きかかえられたメイラが、小さく呻く。


「ヘレナ…さん」


「メイラ!」


「だめ…私、もうここまでみたいだよ。あとは、頼んだよ、…ヘレナさん」


「そんな…っ、メイラー!」


「私に構わず…私の屍を乗り越えて…振り向かずに、前だけを見て…戦っ…て…」


―ガクッ…


「メイラーーーー!!」


「………すぴ~~zzz」


(いや、寝るんかい!)


「Zzz…」


体力の限界を迎えたのだろう。メイラが鼻提灯を膨らませて寝落ちしていた。


(なんだ、疲れて寝てるだけか…)


「おのれ、リオン!メイラの仇!!」


(メイラ、生きてるから!)


友を失ったかの様な怒りの形相で振り返るヘレナの側で、メイラがむにゃむにゃと平和な顔で寝ている。


(これ以上、仇コレクションを増やさないでくれ…)


寝てるメイラを優しく地面に置き、ヘレナは改めてこちらへと向き直す。


「さあ…行くわよ、リオン!」


(うげっ!?)


正眼に構えたヘレナから、今まで以上に強く白い光が発せられ、背後に出現した後光が一層輝く。


「あなたを倒すための奥の手…、今こそ使うわ! 『禁忌の魔法』発動!【―― 」


「ちょっと、待ってええええーー!!」


「─っ!?】…って、何よ!?」


俺の制止に、何かの魔法の名を言おうとしたヘレナが出鼻を挫かれる。


めないでよ!」


(止めるわ!今、禁忌の魔法って言っただろ!)


そんなヤバそうな魔法使わせてたまるか。


(まずいぞ。何としても、戦いを回避せねば!)


「…勇者よ、この俺と戦いたいようだが、やめておいた方がいい。」


「なんですって?」


「俺の後ろに六枚、闇の翼があるだろう?」


背後に出現している六枚の闇の翼を、指差す。


「…? あるわね。それがどうしたの?」


「俺はいつでも闇の魔法を放つ事が出来る。いいのか?」


「関係ないわ。私の力であなたの魔法を打ち破るだけよ!」


「本当にいいのか?使うぞ。 強力な闇の魔法、使うぞ?」


「どうぞ、ご自由に。 どんな魔法が来ても、私は負けないわ!」


「……闇の魔法、使うぞ?」


「しつこい!使うなら、さっさと使いなさい!」


俺のしつこさにキレたからか、ヘレナの背後にある後光がピカ一ッと更に強く光りを増す。


(これ以上しつこく聞いたら、飛びかかって来そうだな…)


闇の魔法で脅して、戦いを回避しようとしたが逆効果の様だ。


何か他の方法を考えねば…。


「どうしたのー?闇の魔法使わないのー?」


(さて、どうしよう。何か、戦いを避ける方法はないものか…)


「ねえーってば。おーい、 来ないのー?」


(うるさいな、こっちは今考え事をしてるん―)


「来ないなら、こっちから行くわよ!」


(ッ!?)


ヘレナが長剣を後ろに振り上げた構えを取る。


(まずい!)


闇の球体を斬った時と同じ構えだ。このままでは、光の刃で斬られてしまう。


(な、何かないか!?助かる方法は…あっ!)


ある人物を見て、この場を切り抜ける方法を思い付く。


「待て、勇者! そこで寝ている魔導士がどうなってもいいのか?」


「え?」


「…………すぴ~」


俺は呑気な顔で寝ている、メイラを指差す。


「ここで俺とお前が戦えば、そいつも巻き込まれてしまうだろう。」


「っ…!」


「俺は戦場で寝ている奴に情けをかける程、優しくはないぞ。 果たして、そいつを守りながら俺と戦えるのか?」


「くっ!」


ヘレナが悔しそうな顔で、俺とメイラを交互に見る。


「う~~…」


(お、何とかなりそうだぞ!)


「リ、リオン一人なら、メイラを守りながらでも戦えるわ!」


(くそ、強情な奴ぅ!)


あと、一押し。


ヘレナに俺と戦う事を止めさせる、他に何かいい手はないかと考えていると、どこからか二人の人物が現れる。


「リオン様、ご無事ですか!」


「勇者を逃がした上に、我が君の手を煩わせてしまうとは、何たる失態!」


(クロエ、ロノウァ!)


生きてのか!


「…ふん。お前達、無事だったのか。」


「はい!傷だらけのボロボロですけど。」


クロエは、剣で斬りつけられた跡で服が所々裂けており、大きな丸メガネはひび割れていた。


(確かにボロボロだが、大事は無い様で何よりだ。)


「我が君、勇者を討ち倒せず申し訳ありません!どうぞ、私を罰してください!」


既にボロボロだったタキシードを自分で引き裂いて、さあ!と腕を広げるロノウァ。


(……とりあえず、元気そうで何よりだ。)


「クロエに、ロノウァ!あなた達、生きてたのね」


クロエ達の登場が予想外だったのか、ヘレナが驚く。


「あの技…で倒したと思ったのに!」


「確かには危なかったですよ~。正直、もうだめかと思いました。」


「まさか、を使うとは。恐るべし勇者。こそ、我ら魔族を完膚無きまでに葬り去ることが出来る力ッ!」


(あれって、何だろう?)


「…あれとは、何だ?」


「リオン様、お気をつけください!あれが発動するかも知れません!」


「あれを使われては、私達は一溜りもありません!我が君は、私が体を張ってでもお守りいたします!」


「…いや、だから、あれって何?」


「あれを使えば勝機はあるけど…、あれを使うには魔力を集中する時間が必要だわ!」


(誰も聞いちゃいねえ…)


あれについて誰も説明してくれそうにないな。


…まあ、どうせやばい何かだろう。


ともあれ、ここでクロエとロノウァが来た事は僥倖ぎょうこうだ。


俺は、戦いを回避する最後の一押しに、二人を利用する事を思い付く。


「…勇者よ、今この場に魔王軍幹部である俺と、我が軍団の副長 クロエ、四天王 ロノウァがいる。 お前はそれでも、そこで眠りこけているメイラをかばいながら戦うというのか?」


「ぐっ…、ぐぬぬ~」


ヘレナが迷った顔で、俺達とよだれ垂らして能天気な顔で寝てるメイラを交互に見る。


「…さあ、どうする?やるというのなら、俺達は容赦せんぞ!」


凄みながら、漆黒の魔力が溢れ出る掌を向ける。


クロエは手から鋼鉄線を出し、ロノウァは空中に水の塊を出現させて構えた。


「くっ…!」


ヘレナは少し逡巡したが、長剣を鞘に収めると、メイラを抱えて自分の前に転移用の魔法円を出現させた。


「メイラを安全な場所に運ぶために一旦ここを離れるけど、べ、別に逃げるわけじゃないから!」


ヘレナが俺を、ビシッと指差す。


「戻って来るから、ここで待ってなさい!」


「…ふん、わかった。」


「そのまま尻尾を巻いて西の国まで帰ってもいいんですよ~?勇者~」


「誰が帰るもんですか!すぐに戻るから、ここに居なさいよ!」


「…ここで待っててやるから、早く行け。」


「絶対だからね!どっかに行っちゃだめだからね!」


「…ふん、わかっている。さっさと魔導士の小娘をここから遠く安全な所に連れて行け。…あと、寝てる時、冷えないように毛布をかけてやるんだぞ。」


「あなたに言われなくても、わかってるわよ!いい?絶対ここに居なさいよ。絶対だからね!」


そう言い残して、メイラを抱えたヘレナが転移用の魔法円に入っていった。


(……………)


転移用の魔法円が収縮して消え、確実にヘレナがこの場から去ったのを確認。


「…ふん。」


(よし、逃げるか。)




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