第8話 会議の後に

 会議が閉会し、幹部達と俺は会議室を後にする。


 俺はそのまま記憶にあるリオンの自室に向かう。


 火の付いた蝋燭が立つ燭台が壁に等間隔に並べられた薄暗い廊下を歩き、


この世界の文字で【リオン・アウローラ】と書かれた金属製のドアプレートが貼られた部屋にたどり着く。


 部屋に入り、内側から施錠する。


 そして、そのまま奥のベッドに座…らず―、


顔面からダイブした。


(うわぁぁぁぁん! もうやだ~、お家帰りたーい!)


 声にならない叫び声を上げる。


 先程まで緊張と恐怖に耐えていた俺の体が、ダイブした途端震えだす。


(今回は何とかなったが、次はどうなるかわからん! ただでさえ、正体がバレるリスクがあるというのに、さらに、会議中に幹部が暴れ出す危険もあるだと!?そんな中を魔力なしで自分の身を守る術がない俺はどうすればいいっちゅんじゃい!)


 会議中、今回のグラキルスの様に何気ない発言が誰かの怒りに触れて争いに発展するかもしれん。


(あんなやばい連中の集まる会議で何を発言しろと!? )


 やばいぜ、俺。 何とかせねば。


(せめて、リオンの魔力が回復して、魔法が使えればな…。)


 いつ回復するかわからない魔力に希望を抱いていると、


 ドンドンッ


 ドアがノックされた。


 俺は急いで姿勢を正し、顔を引き締めた。


 施錠したドアを開けに行こうと近づくと、


 ガチャッ


(ん?)


 バンッ


(ブヘッ!?)


 施錠が勝手に外れたかと思えば、勢いよく開いたドアに俺の顔面にぶつかった。


「リオン様! ご無事でしたか!? お怪我は…あれ?」


 部屋に入ってきたクロエは、視界に俺がいないので、頭に疑問符を浮かべる。


 俺は顔面からドアを引き剥がし、そのまま閉めた。


「あっ、リオン様、そこにいたのですか! 何してたんですか?」


 キョトンとした顔で聞いてくる。


「…何でもない。 気にするな。」

(お前にドアぶつけられたんじゃい!この丸眼鏡)


 今日は、眼鏡かけた奴に攻撃される日なのか?


「それで、お前はどうしたんだ?」


「そうでした! 会議中、グラキルス様が暴れて、それにリオン様が対処したと聞いたので」


(耳が早いな。 会議終わってからそんなに時間は経ってないぞ。)


「他の幹部達が割って入れない程の 凄まじい戦いで、 リオン様はひどい傷を負ったって、さっきヒミカ様に聞いて急いで駆けつけました!」


(なんか話が、脚色されてない?)


「…………お怪我は、されてない様ですね。」


「…あぁ。」


 だって、別に戦ってないし。座ってただけだし。 …危うく大怪我するとこだったが。


「…よかった~~。」


 緊張した顔から、へにゃっと、表情が崩れるクロエ。


(本当に心配してたんだな。 リオンはいい部下を持ったな。)


 そうだ、とクロエは何かを思い出した様で、


「魔王城帰還祝いに、久しぶりに飲みませんか? 実は上等なワインを用意していたんですよ。」


「ほぉ…。 貰おうか。」


「はい! 今、持ってきますね!」


 そう言うと、クロエは嬉々と部屋を出て行った。


(上等なワインを用意してるとは、 リオンは本当にいい部下を持ったな!)


 俺は今日だけで、いきなり知らない世界に呼ばれて命の危機に晒されたんだ。


 飲まなければやってられるか!


(おつまみは何かないかな?)


 お菓子でも隠してないかと部屋を漁ろうとすると、


「あの…、リオン様」


 クロエが緊張した面持ちで、部屋に入ってきた。


(もう、持ってきたのか。早いな…え!?)


 クロエの後ろに続いて入ってきた人物を見て驚く。


「…ふむ。 遅くに失礼するよ、リオン。」


 議長こと、クレアがいた。


 クロエめ、上等なワインじゃなくて、上司クレアを持ってくるとはな。


(何事? あっ、もしかして、一緒に飲むのかな?)


「残念ですが、リオン様。 今日の帰還祝いは、なしです。」


 クロエが残念そうに、言う。


 どうやら一緒に宴するわけじゃなさそうだ。


(てことは、何だ? なんか嫌な予感がする。)



「何だかすまないな。 今度、私から埋め合わせをさせてくれ。」


「いえいえ、お気になさらず!」


 クレアに恐縮するクロエ。


「それで、用件はなんだ? クレア。 」


 クレアに対しても、多分このしゃべり方でいいと思う。


「ふむ。 帰ってきて早々にすまないが、明日の朝、東にある『島国』に行き、 そこにいる魔王軍の部隊と合流してくれ。」


 (東の島国?)


「今しがた連絡が来たのだ。

 勇者とその仲間達が、【東の国】へ向かっているらしい。」


(……ッ !?)


「おそらく、勇者は東の国の人間軍と協力し、今魔王軍が占領している【ジャホン国】という島国の奪還が目的なのだろう。」


(東の島国、ジャホン国…)


「知っての通り、勇者は魔王軍幹部に匹敵する程の実力だ。」


(え、そうなの!?)


「リオン、お前には 勇者討伐を頼みたい。」


(…oh、 マジか。)


「任せたぞ。我ら魔王軍幹部、その中の三傑の一人、『終焉の王』 リオン・アウローラ!」


(やめろぉ! 何だその二つ名は!?)


 魔族最強のクレアから直々に下された任務に、『終焉の王』(仮)は、


「…ふん、任せろ。」

(ひゃぁぁ!)


 一切動揺を見せず、冷静(を装って)に承るしかなかった。



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